【FFT SS】融点
空が曲がるほど風の吹く寒い夜は、ラムザが布団にもぐり込んでくる。
「一人だと眠れないんです。こういう夜は」
「子供ではあるまいし」
言って笑うが、嫌ではない。けっして、嫌ではないから、私はいつも布団のはしをそっと持ち上げる。そういう夜には、こっそりラムザを待っていることは内緒だ。風の強い冬の日は、この風が夜まで止みませんようにと、こっそり願っているのも内緒だ。
するすると、音もなくラムザが入ってきて、私にぴったり寄りそって、止まる。ねまきは布団の端からここまでのどこかで脱ぎ捨てられている。
私も、夜着の紐をほどく。ラムザの手が伸びてきて、襟開きの広い私の夜着をやさしく脱がしていく。
そのあと、何かすることもあれば、しないこともある。ラムザにぎゅっと抱きしめられているだけでも私は満足だし、ラムザもそれなりに満足みたいだ。でも何もしなくても、服は二人ともかならず脱いで裸になる。
私は肌が人より冷たいらしい。そのせいか、裸の肌がラムザの肌にふれると、火傷をするほど熱く感じることがある。裸の私の肌が、裸のラムザの肌に覆われて、隙間なくぴったりラムザに包まれると、熱いお湯の中に入れられたようになって、心臓がどきどき打って、そのくせ心はとても落ち着いて、ゆっくりと眠くなってしまったりする。
「アグリアスさんの肌は気持ちいいですね」
そんなことを言いながらラムザの腕が背中や他のところを撫でたりすると、私はその撫でられたところからどんどん柔らかくなって、ラムザの手のひらの熱と一緒にそれが拡がっていって、しまいにはラムザの腕の中でとろとろと流動するひとかたまりの液体になってしまうような気がする。
どんなものにも固体、液体、気体という三つの姿があり、それは温度によって変わるのだとアカデミーの講義で教わった。
氷は零度で融ける。
蜜蝋は60度で融ける。
鋼は何度か知らないが、炎が赤でなく白く見えるほどの温度で融けるという。
ならば、きっと私は、
「……私はきっと、お前の体温で融けるのだろうな」
ラムザは頓狂な顔をして、それから見たこともないほど真っ赤になった。胸に伝わる心臓の鼓動が、いきなり倍ほどになった。
「アグリアスさんはときどき、びっくりするような凄いことを言いますね」
そうだろうか? ラムザの方がいつもずっと凄いことを言っていると思う。
まぶたが重くなってきた。ラムザの照れた顔を見ながら、そうっと目を閉じる。
今夜もまた、ラムザに融かしてもらおう。窓の外には冷たい風が吹き荒れているけれど、ラムザが一緒の布団の中なら平気だから。私はとろとろの液体にされて、ラムザの肌を容れ物にして眠ろう。
明日はまた、剣に戻るから。
~fin~