FFT_SSの日記

インターネッツにあるFFTのSSや小説を自分用にまとめてます。

【FFT SS】アグリアス「くっ、風邪をひくとは……!」

 

 

アグリアス「……まだ熱っぽい。今日一日は大人しく……ん?」コンコン 

 

???「アグリアスさん、起きてますか?」 

 

アグリアス「その声、ラムザか」 

 

ラムザ「あれ、よくわかりましたね」 

 

アグリアス「長い付き合いだからな」 

 

ラムザ「はは、ごもっとも。それよりおかゆを作ってきたんですが、食べられそうですか?」 

 

アグリアス「おかゆ……って、おまえが自分で作ったのか?」 

 

ラムザ「ええ、お口に合うかはわかりませんけれど」 

 

アグリアス「それは、わざわざ申し訳なかった。主君の手を煩わせてしまうとは」 

 

ラムザ「とんでもない、いつもお世話になりっぱなしですから。じゃあ、お邪魔します」ガチャッ 

 

 

 

アグリアス「……どうした?」 

 

ラムザ「あ、いえ、その。パジャマ姿のアグリアスさんも新鮮だなって」 

 

アグリアス「それは、褒めているのか?」 

 

ラムザ「ええ、可愛いらしいなって」 

 

アグリアス「……呆れたものだな、真顔でよくもそんなことが言える」 

 

ラムザ「す、すみません。でも、牛柄よく似合ってますよ」 

 

アグリアス「断っておくが、これはラヴィアンの趣味だからな」 

 

ラムザ「はい?」 

 

アグリアス「訓練中に倒れて、気がついたらこの格好に着替えさせられていた」 

 

ラムザ「ああ、そうだったんですか」 

 

アグリアス「そして、病の身で着替えるのも億劫だからそのままにした。それだけだ」 

 

ラムザ「はい、わかりました」 

 

アグリアス「……何を笑っている」 

 

 

ラムザ「い、いえ! それで、お加減はいかがですか?」 

 

アグリアス「今日一日寝ればほぼ治りそうだ。三日後の戦いには十分に間に合う」 

 

ラムザ「ああ、そのことなんですが、アグリアスさんは今回の編成からは外させていただいたんですが」 

 

アグリアス「なん……だと?」 

 

ラムザ「ここのところ連戦続きでしたし、十分に静養していただかないと」 

 

アグリアス「無用な心配だ。それほどやわに鍛えているつもりはない」 

 

ラムザ「いえ、やわとかそういうことではなくて」 

 

アグリアス「大体それを言ったら、おまえはろくに休んだことがないではないか」 

 

ラムザ「それはまあ、僕は一応指揮官ですし」 

 

アグリアス「ならば私は騎士だ。騎士とは盟主と仰ぐ者の剣となるが役目だ」 

 

 

 

ラムザ「もちろん、アグリアスさんの強さは十分承知していますよ」 

 

アグリアス「なら、参謀殿に変更を申し伝えて――」 

 

ラムザ「ですが、体調を崩していることに気づかなかったのは僕の責ですから」 

 

アグリアス「……あくまで変える気はないと?」 

 

ラムザ「ええ」 

 

アグリアス「私が大丈夫だと言っているのにか?」 

 

ラムザ「心配症と笑っていただいても結構ですよ」 

 

アグリアス「……」ジー 

 

ラムザ「……」ビシッ 

 

アグリアス「……フッ。おまえの頑固も相当だな」 

 

ラムザ「はは、こういうところは親譲りですかね。さあ、それより冷めないうちに」 

 

アグリアス「……ん? 少しは冷まさないと食べられないのでは」 

 

ラムザ「大丈夫です。そのために僕がいるんですから」 

 

 

 

ラムザ「ふーっ、ふーっ」 

 

アグリアス「……おい」 

 

ラムザ「うん、これくらいでいいかな」 

 

アグリアス「おい、ちょっと待て」 

 

ラムザ「さあ、アグリアスさん。あーんしてください。あーん」 

 

アグリアス「だから、ちょっと待てと言っている!」 

 

ラムザ「はい、なんでしょうか?」 

 

アグリアス「おまえは一体なにをやっている」 

 

ラムザ「おかゆを冷ましてアグリアスさんに少しでも美味しく食べてもらおうと」 

 

アグリアス「結構だ、一人で食べれる」 

 

ラムザ「ええー?」 

 

アグリアス「なんでおまえが不服そうな顔をする――なっ」ピタッ 

 

ラムザ「んー、やっぱり明らかに熱いですよ」 

 

 

 

アグリアス「……わ、わざわざ額を当てなくでも、手で十分にわかるだろう!」 

 

ラムザ「ほら、息だって熱い」 

 

アグリアス「……んむ」 

 

ラムザ「僕のなんてことない動きにもろくに反応できなかったし」 

 

アグリアス「う……、それは、しかし、だな」 

 

ラムザ「病人なんですから遠慮しないでください。さあ」 

 

アグリアス「……まったく、変なところで強情なやつだ」 

 

ラムザ「はい、あーん」 

 

アグリアス「う、む、あ……あーん」 

 

ラムザ「よっと」クルリ 

 

アグリアス「…………」モグモグ 

 

ラムザ「どうですか? 熱すぎたりしません?」 

 

アグリアス「…………」コクリ 

 

 

 

ラムザ「よかった、じゃあどんどん行きますね」 

 

アグリアス「……ラムザ」 

 

ラムザ「はい、アーン」 

 

アグリアス「その……やはり自分でやらせてはもらえないか」 

 

ラムザ「え、なんでですか?」 

 

アグリアス「わ、わかるだろう。騎士としてあるまじきこの状態は」 

 

ラムザ「もしかして、恥ずかしい、ですか?」 

 

アグリアス「有り体に言えば、そういうことだ」 

 

ラムザ「でも、誰も見ていませんけれど」 

 

アグリアス「おまえが見ているだろうが!」 

 

 

 

アグリアス「……ご馳走様でした」 

 

ラムザ「うん、完食ですね」 

 

アグリアス「(……結局押し負けてしまった)」ハァ 

 

ラムザ「ちょっと汗をかかれているようですが」 

 

アグリアス「ああ、食事をしたからな。なんだか少し体が温まってきた気がする」 

 

ラムザ「そのままでは冷えてしまいますね。横になってください」 

 

アグリアス「ああ。……って、おい、まさか」 

 

ラムザ「昔は妹のアルマもこうして汗を拭いてあげたんですよ。病弱だったから」ギュウウウ 

 

アグリアス「ラムザ」 

 

ラムザ「はい、準備できました」 

 

アグリアス「もういい、あとは自分でやる。おまえも自分の仕事に戻れ」 

 

ラムザ「…………」 

 

アグリアス「捨てられた仔犬のような目をしても、ダメなものはダメ!」 

 

 

 

ラムザ「わかりました。じゃあ、アリシアさんに着替え、お願いしてきますね」 

 

アグリアス「そうだな、そうしてくれると助かる」 

 

ラムザ「はい、じゃあ安静にしていてくださいね」 

 

アグリアス「わかっている。……ラムザ」 

 

ラムザ「?」 

 

アグリアス「その……なんだ」 

 

ラムザ「アグリアスさん?」 

 

アグリアス「……感謝する」 

 

ラムザ「……ふふ、はい。すぐ呼んできます」 

 

 

 

アリシア「あはは、それは大変でしたね」 

 

アグリアス「まったくやつは。自分の立場というものを軽く考えるきらいがある」 

 

アリシア「確かに、そういった傾向は見受けられますね」 

 

アグリアス「戦場でもああだからな、こちらもやきもきしてしまう」 

 

アリシア「そうですね、一般兵を庇おうと囮になるとかしょっちゅうですし」 

 

アグリアス「正義感が強すぎるのも困りものだな」 

 

アリシア「(ご自分が見えてないところとか、そっくりですね)」 

 

アグリアス「ん、なにか言ったか?」 

 

アリシア「いえ、なんでも」 

 

アグリアス「そうか、ともかく、多くの兵を抱えている以上、一人にかかずらっていてはいつか足元を救われる」 

 

アリシア「ですが、それは美点ともとれますよ?」 

 

アグリアス「指揮官としては失格だ。本来なら、私の体調管理不行き届きを叱らねばならなかった」 

 

 

 

アリシア「アグリアス様は、ラムザ様に看病されたことが不服なのですか?」 

 

アグリアス「それは――」 

 

アリシア「はい」 

 

アグリアス「本音を言えば、嬉しかった」 

 

アリシア「それでしたら」 

 

アグリアス「だが、そうした気遣いは、決して彼のためにはならないだろう」 

 

アリシア「そうでしょうか?」 

 

アグリアス「指揮官はもっと大局を見据え、毅然とした態度を取るものだ」 

 

アリシア「お言葉ですが、そうした指揮官が跋扈した結果が、今の戦乱なのでは?」 

 

アグリアス「――――」 

 

アリシア「あ、その、すみません。出すぎたことを」 

 

アグリアス「……いや、いい。むしろ感心したくらいだ」 

 

 

 

アリシア「どうですか、気持ちいいですか?」フキフキ 

 

アグリアス「ああ……冷たくてなんとも、……ン」 

 

アリシア「あ、すみません。髪、くすぐったかったですか」 

 

アグリアス「いや、大丈夫だ」 

 

アリシア「……ふふ」 

 

アグリアス「なんだ、なにがおかしい」 

 

アリシア「いえ、最近、アグリアス様の口からはラムザ様の話題が多いなって」 

 

アグリアス「……そうか?」 

 

アリシア「ええ」 

 

アグリアス「妙だな、意識しているつもりはないのだが」 

 

アリシア「(それは、無意識的に惹かれているってことなのでは)」 

 

 

 

アグリアス「なにか言ったか」 

 

アリシア「いえ、なんでも。はい、拭き終わりましたよ」 

 

アグリアス「ああ、すまない」 

 

アリシア「(うーん、鎧焼けがくっきりしてなめまかしい)」ツツー 

 

アグリアス「ひゃあん!?」 

 

アリシア「あ、すみません、つい」テヘ 

 

アグリアス「な、なにがついだ! 妙な悪戯をするな!」 

 

アリシア「そ、そんなに怒らないでくださいよ。さあ、これ着替えです」 

 

アグリアス「……なんだ、これは」 

 

アリシア「ミネルバビスチェです。とても強力な防具です(棒読み)」 

 

 

アグリアス「……アリシア」 

 

アリシア「なんでしょうか」 

 

アグリアス「これからラムザがまたここに来るのだが」 

 

アリシア「はい、そう聞いています」 

 

アグリアス「それで、なんで着替えの選択がこれなのだ」 

 

アリシア「え、なにかご不満でも」 

 

アグリアス「大ありだ! なんだこのスケスケした服は」 

 

アリシア「ああ、寝巻にしては少し露出が高めですよね」 

 

アグリアス「ほとんど下着だろう!」 

 

 

アリシア「ふう、わかりました」 

 

アグリアス「わかってくれたか」 

 

アリシア「後ほど替えをお持ちします。なので、ひとまずはこれを着ておいてください」 

 

アグリアス「なに? いや、しかし」 

 

アリシア「汗に濡れた寝巻を着たら風邪をこじらせてしまいますし、裸なら尚更でしょう?」 

 

アグリアス「それは、そうだが」 

 

アリシア「(やはり、論理的に攻められると弱いですね)」クスクス 

 

アグリアス「しかし、これはどうやって着るのだ」 

 

アリシア「私がお手伝い差し上げます」キリッ 

 

 

アリシア「お似合いです! とってもお似合いです!」 

 

アグリアス「……か、かなり生地が薄いと言うか、心もとないのだが」 

 

アリシア「あら、お寒いですか?」 

 

アグリアス「いや、それが不思議と温かい」 

 

アリシア「魔力の込められた生地で編まれているんですよ、それ」 

 

アグリアス「ふむ、機能性は高いということか」 

 

アリシア「ええ、なので寝巻としても」 

 

アグリアス「替えを持ってくるまでの我慢だな」 

 

アリシア「(……手強い)」 

 

 

 

アリシア「アグリアス様は、ご結婚とかは」 

 

アグリアス「考えていない」 

 

アリシア「では、一生独身を貫くおつもりですか?」 

 

アグリアス「そうではないが、夫にしたいと思える男がいないからな」 

 

アリシア「それは、条件とかあるんですか?」 

 

アグリアス「人に対して誠実であり、研鑽を怠らず、かつ私よりも強い男であることが最低条件だ」 

 

アリシア「(ハードルたっか、というか、アグリアス様より強い男ってほとんどいないんじゃ)」 

 

アリシア「あ、あの、ラムザ様とかはどうでしょうか?」 

 

アグリアス「うん? ラムザがどうかしたのか?」 

 

アリシア「いえ、ですから結婚相手として考えると」 

 

アグリアス「…………」 

 

アリシア「……そんな真剣な顔して考えこまなくても」 

 

 

 

アグリアス「ラムザは、結婚するのだろうか」 

 

アリシア「いずれはなされるのではないかと。王女誘拐の汚名も晴れたのですし」 

 

アグリアス「そうか、そうだな」 

 

アリシア「(軍団の女性たちにも、貴族の方々にも人気あるものね。母性本能をくすぐるのかしら)」 

 

アグリアス「彼が身を固めるまでは、私が守り通さねばならんな」 

 

アリシア「あの、アグリアス様はラムザ様のことをどう思っているのですか?」 

 

アグリアス「私が、彼を?」 

 

アリシア「ええ、単なる主従というよりは親しく見えますし」 

 

アグリアス「……そう言われても、よくわからないな」 

 

アリシア「わからない、ですか?」 

 

アグリアス「手のかかる弟のよう、かと思えば、歴戦の猛者すらも震え上がらせる勇士の顔を持つ」 

 

アリシア「安定していない、ですか」 

 

アグリアス「彼が一体何者であるのか、この先何者になるのか。私はこの目で見届けたい」 

 

アリシア「(要約すると、一緒にいたいということですね。ご馳走様です)」 

 

 

 

アグリアス「……アリシア、遅いな」 

 

  ――コンコン 

 

アグリアス「やっときたか、アリシ――」 

 

ラムザ「あの、アグリアスさん」 

 

アグリアス「ラムザ!?」ガバッ 

 

ラムザ「あ、はい」 

 

アグリアス「ちょ、ちょっと待て! アリシアが新しい着替えを持ってくると」 

 

ラムザ「ええ、持っていった寝巻が気に入られないようなので持っていくようにと」 

 

アグリアス「……アリシアはどこへいった」 

 

ラムザ「急用を思い出したと、先ほど市場へ」 

 

アグリアス「(お、おのれ……たばかったかアリシア!)」 

 

 

 

 

ラムザ「どうです、少しは落ち着かれましたか?」 

 

アグリアス「あ、ああ。お陰様でな」 

 

アグリアス「(よくよく考えれば、布団を被っていれば関係ないのか)」ホッ 

 

ラムザ「水差しを持ってきました。ちゃんと冷やしておいたので美味しいですよ」 

 

アグリアス「それはありがたい。ちょうど喉が渇いて――」 

 

ラムザ「起き上がれます?」 

 

アグリアス「げ、げほっ、げほっ」 

 

ラムザ「ア、アグリアスさん!?」 

 

アグリアス「い、いや、大丈夫だ。しかし、起き上がるのは少し辛い、かな」 

 

アグリアス「(くっ、恨むぞ……アリシアのやつ!)」 

 

 

 

ラムザ「じゃあ、僕が飲ましてあげますね」 

 

アグリアス「……面目ない」 

 

ラムザ「いえいえ、じゃあ、どうぞ」 

 

アグリアス「ありがとう――ん」チュ 

 

ラムザ「むせないよう、ゆっくり飲んでくださいね」 

 

アグリアス「…………」コクコク 

 

ラムザ「(よほど喉が渇いてたんだな。すごい勢いだ)」 

 

アグリアス「――――ぷぅ」 

 

ラムザ「っと、滴が垂れて」スス 

 

アグリアス「……んむ」 

 

ラムザ「はい、拭き取れました」 

 

アグリアス「……すまない」 

 

 

 

ラムザ「じゃあ、着替えここに置いておきますね」 

 

アグリアス「忙しいところを、色々すまなかったな」 

 

ラムザ「いえ、アグリアスさんの力になれて嬉しいです」 

 

アグリアス「(……羨ましいやつだ)」 

 

ラムザ「え?」 

 

アグリアス「……なんでもない。私も少し寝る、仕事に戻れ」 

 

ラムザ「はい、なにかあったらいつでも言ってください」 

 

アグリアス「わかった」 

 

ラムザ「おやすみなさい、アグリアスさん」パタン 

 

アグリアス「……やれやれ、返って熱が上がってしまったかな」 

 

 

 

  ――これは、夢? 

 

 

アグリアス「くそ、こちらも塞がれているか」 

 

オヴェリア「アグリアス、私のことはいいから早く逃げて! もたもたしていたら手遅れになるわ!」 

 

アグリアス「ここに姫を置いてはいけません!」 

 

オヴェリア「私にはおいそれと手を出せないはずです。でもあなたが捕まったらなにをされるか!」 

 

アグリアス「私の心配など不要です! さ、お早く!」 

 

オヴェリア「アグリアス! 死ぬよりひどい目に遭うかも知れないのよ!?」 

 

アグリアス「……そのときはそのとき、騎士の道を志したときから覚悟の上です」 

 

ライオネル兵士「おい、いたぞ! こっちだ!」 

 

アグリアス「くそ、見つかったか!」 

 

オヴェリア「――アグリアス・オークス!」 

 

アグリアス「――オヴェリア様、何を!」 

 

オヴェリア「王女として、あなたの主君として命じます! ここから一人で立ち去りなさい!」 

 

 

 

???「いたぞ、こっちだ! 回り込め!」 

 

アグリアス「……鎧が、こんなに重いとは。……天にまで見放されたか」 

 

アグリアス「(……弱音を吐いている場合か。一刻も早く、ラムザの元へいかねば!)」 

 

ライオネル兵2「もらった! 蔦地獄!」 

 

アグリアス「はっ、しまっ――ぐああっ!」 

 

ライオネル兵2「よぉし、絡め取ったぞ!」 

 

ライオネル兵3「へっへ、手を焼かせやがって」 

 

アグリアス「き、貴様……ら」 

 

ライオネル兵2「二人も殺ってくれやがって、覚悟はできてるんだろうな」 

 

ライオネル兵3「へへ、おい」 

 

ライオネル兵1「任せとけ、――アーマーブレイク!」 

 

 

 

アグリアス「――くうぅっ!?」 

 

ライオネル兵1「ひゅー、こりゃ意外だ。着やせするタイプなんだな」 

 

アグリアス「くっ、騎士を愚弄するか、戦士の風上にもおけぬやつらめ!」 

 

ライオネル兵3「いいねいいね、気が強くて楽しめそうだ」 

 

ライオネル兵1「そんな格好で、自分の状況がわかっているのか、な!」ドスッ 

 

アグリアス「――がはぁっ!」 

 

ライオネル兵2「まだまだぁ!」ドムッ、バシッ 

 

アグリアス「――ふぐっ――あぁ!」 

 

アグリアス「(ぐ……駄目だ……体に力が、入ら……)」 

 

 

 

ライオネル兵2「あらよっと!」ズンッ 

 

アグリアス「ぐぶっ?! ――――げえぇぇ!」 

 

ライオネル兵3「あらあら、聖騎士様ともあろう方がみっともねえ」 

 

アグリアス「……がぁ……き、貴様ら――痛ぅ!」グイ 

 

ライオネル兵1「いい顔になってきたじゃねえか、なあ?」 

 

ライオネル兵2「震えちまって可愛いねえ」 

 

アグリアス「ふ、震えてなど! ……う」 

 

ライオネル兵3「動いたら顔どころか全身に一生消えない傷が付くぜ?」 

 

アグリアス「や、やめ……ろ……」 

 

 

アグリアス「(……こんな、こんなところで)」 

 

ライオネル兵3「さて、殺す前にお楽しみといこうか」 

 

ライオネル兵1「当然だろ」ペロリ 

 

アグリアス「……や、この、離せ! 離せぇ!」 

 

ライオネル兵2「おおっと、まだこんな力が残っていたか。ちゃんとしっかり足持ってろ」 

 

ライオネル兵3「すまんすまん」 

 

アグリアス「(ぐ……動かな……い……)」 

 

ライオネル兵3「おい、おまえベルト外せよ」 

 

ライオネル兵1「へへ、わかってるって」カチャカチャ 

 

アグリアス「……き、貴様ら、絶対に殺してやる!」 

 

ライオネル兵1「この状況で涙一滴流さないたあ、見上げたもんだ」 

 

ライオネル兵2「そこがまた、そそるんだろ?」 

 

ライオネル兵3「はは、違いねえや!」 

 

アグリアス「(オヴェリア様も救えず、私は――)」 

 

  ――アグリアスさん! 

 

 

 

ラムザ「――さん、アグリアスさん!」 

 

アグリアス「――はっ」 

 

ラムザ「だ、大丈夫ですか、随分うなされていましたけど」 

 

アグリアス「……ハァ……ハァ……ラム……ザ?」 

 

アグリアス「(……ラムザの……手)」 

 

ラムザ「まだ熱っぽいな。ちょっと薬を持ってきます」 

 

アグリアス「……ま、待て!」 

 

ラムザ「え――」 

 

アグリアス「…………」 

 

ラムザ「どうしました? どこか、痛むところでも」 

 

アグリアス「……少しの間でいい、ここにいてくれ」 

 

ラムザ「わ、わかりました」 

 

 

 

アグリアス「…………」 

 

ラムザ「…………」 

 

アグリアス「…………」モジモジ 

 

ラムザ「……あの」 

 

アグリアス「……その、汗臭くないか?」 

 

ラムザ「え?」 

 

アグリアス「……私だ、二日も湯浴みしていないものだから」 

 

ラムザ「あ、いいえ。全然平気ですよ」 

 

アグリアス「……そ、そうか」 

 

ラムザ「アグリアスさんの匂いでしたらいくらでも」 

 

アグリアス「――――っ」 

 

ラムザ「なーんてね、あははは――って、アグリアスさん?」 

 

アグリアス「…………」ムスゥ 

 

 

 

ラムザ「……お、怒っちゃいました?」 

 

アグリアス「……別に。ただ、おまえでも冗談を言うのだなと思っただけだ」 

 

ラムザ「半分冗談でもないんですけど」 

 

アグリアス「……なっ。――って、私をうろたえさせてそんなに楽しいか」 

 

ラムザ「め、滅相もない。ただ、嫌な気分が少しでも晴れるならと思っただけで」 

 

アグリアス「あ……」 

 

アグリアス「(……そういえば、震えが止まっている、な)」 

 

ラムザ「悩みがあるならいつでも言ってください。僕じゃ、頼りないかもしれませんけど」 

 

アグリアス「……悩み、か。それは、指揮官として、か?」 

 

ラムザ「大切な仲間としてです」 

 

アグリアス「……甘いやつだ」 

 

ラムザ「そうかもしれません。けど、僕はこんな自分がそんなに嫌いじゃないので」 

 

 

 

アグリアス「……大分前のことになるが」 

 

ラムザ「はい」 

 

アグリアス「ライオネル城でドラクロワに嵌められ、私が危ういところを助けられたこと、覚えているか」 

 

ラムザ「もちろんです、ひどい雨の日の夜でした」 

 

アグリアス「フッ、そうだったな。先もろくに見通せぬ闇の中で、生まれて初めて死を覚悟した」 

 

ラムザ「僕は、絶対に無事でいてくれると思っていましたよ。実際その通りでしたし」 

 

アグリアス「そんなことはない、あのときおまえが来てくれなければ、私は無事ではすまなかった」 

 

アグリアス「(そう、身も……心も……)」 

 

ラムザ「それを言うなら、僕の方もですよ」 

 

アグリアス「……おまえも?」 

 

ラムザ「後日のゴルゴラルダ処刑場で、アグリアスさんが僕を信じると叫んでくれたことです」 

 

アグリアス「……確かにそんなこともあったか。しかし、よく覚えていたな」 

 

ラムザ「忘れようがありません。あの言葉が、僕がここまでこれた原動力と言っても過言じゃないです」 

 

 

 

アグリアス「そう、か。私はおまえの力に、なれていたのだな?」 

 

ラムザ「ええ、存分に」 

 

アグリアス「仕えるべき主を守れなかった、私でもか」 

 

ラムザ「断言しますよ。それに、まだ守れないと決まったわけじゃないです」 

 

アグリアス「……そう、だな」 

 

ラムザ「あの、さっきうなされていたのは」 

 

アグリアス「……自分の非力さを痛感していただけだ」 

 

ラムザ「非力さ、ですか。アグリアスさんが?」 

 

アグリアス「主を守らねばならないはずの騎士が、逆に主に守られてしまった」 

 

ラムザ「それは……でも、あのときはそうするしか」 

 

アグリアス「挙句の果てに、私が拠り所にしていた騎士の誓いも誇りも、紛いものだった」 

 

 

 

ラムザ「そ、そんなことはないでしょう!」 

 

アグリアス「いや、私の覚悟は嘘っぱちだった。あのときは、ひたすらに怖くて――」 

 

ラムザ「アグリアス、さん」 

 

アグリアス「オヴェリア様は、気がつく御方だ。きっと私の奥底にある恐怖を見透かしたのだろう」 

 

ラムザ「……少し疲れてるんですよ、横になった方が」 

 

アグリアス「ラムザ。私は、アグリアス・オークスとは一体なんなのだろう?」 

 

ラムザ「……アグリアスさん」 

 

アグリアス「幼いころから騎士としての道だけを歩んできた私から剣を取ったら、何が残る? 教えてくれ」 

 

ラムザ「…………」 

 

 

 

ラムザ「(……泣いてる、のか)」 

 

アグリアス「…………」 

 

ラムザ「失礼します」スクッ 

 

アグリアス「……え――わっ」ギュウウ 

 

ラムザ「…………」 

 

アグリアス「……なな、……ななな、なにを」 

 

ラムザ「……ここにいますよ」 

 

アグリアス「……ど、どういうつもりだ、ラム――」 

 

ラムザ「――剣を持たないアグリアスさんに、傍にいて欲しい男が」 

 

アグリアス「…………」パクパク 

 

ラムザ「鎧を着れば誰より勇ましい戦乙女、鎧を脱げばこんなに儚い女性。そんな素敵な人、どこにもいませんよ」 

 

アグリアス「……あ、あぅ」 

 

 

 

ラムザ「……僕は騎士のアグリアスさんが好きなわけじゃありません。騎士であらんとするアグリアスさんが好きなんです」 

 

アグリアス「……ラ、ラムザ」 

 

アグリアス「(……駄目だ、振り解けない……声も全然。……いっそこのまま)」 

 

ラムザ「というわけで」 

 

アグリアス「(…………あれ)」 

 

ラムザ「弱り目にかこつけて口説くのも卑怯ですから、今度返事を聞かせてください」 

 

アグリアス「ま、待てラムザ! 今言ったことはおまえの――」 

 

ラムザ「紛うことなき本心です」 

 

アグリアス「――(///」カァー 

 

ラムザ「(う、うわ、可愛い。というか、今さら恥ずかしくなってきたぞ!)」 

 

ラムザ「え、えと、そ、その、ゆっくり休んでくださいね!」スタタタ 

 

アグリアス「あ、ラム――」バタン 

 

アグリアス「……いってしまったか」 

 

アグリアス「(……こ、こんな言われっぱなしの状態でどう休めと、……もぅ、バカ)」モンモン 

 

 

 

 

~fin~

 

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