FFT_SSの日記

インターネッツにあるFFTのSSや小説を自分用にまとめてます。

【FFT SS】日記騒動

 

ー処女の月七日ー

 

『ここ数日は天候に恵まれ、魔物との遭遇もほとんどなく、思いのほか早くザランダに到着する事ができた。

先に派遣した武術大会に出場した者達の帰還を待つため、二日ほど滞在する……

 

 

スラスラと、端正な字で旅の行程を書き綴るアグリアスさん。

彼女はもともと、日記というものにあまり意味を感じなかったのですが、

ラムザと行動を共にして以来、そういった彼女の人生観は大きく変わりました。

 

良きにしろ悪きにしろ、日々体験するまったく知らなかった物事。そして自分の知らない道を歩むという事。

自分の職務に誇りはもっていた。だが、それは同時にいわれた事をやっていただけなのかもしれない。

今はどうだろう。私は何のために何をしているか、わかっているのだろうか。

いつからか、アグリアスさんは自分の行いを記すようになりました。

 

そういうわけで、宿に泊まる度に日記を書くのが、今のアグリアスさんの習慣となっています。

 

 

ところで、

隣を見ると、護衛をしていた頃からの付き合いであるアリシアもまた、どうやら日記を書いているようです。

彼女が日記を書いているのを見かけた事はほとんどなかったので、

私と同じような思いで書きはじめたのかな、と思うアグリアスさん。

けれどアリシアさん、なぜか日記を書きながらニヤニヤ、おまけにブツブツと嬉しそうに何か呟いています。

やがて、ふうと一息。どうやら書き終わったらしく、ラヴィアンに声をかけると、

「隊長、私達はお先に湯を浴びて参ります。」

「あぁ、わかった。」

遅い夜に一人で入浴するのが好きなアグリアスさんをおいて、パタンとでていってしまいます。

 

 

 

 

……一刻も早くオヴェリア様をお救いし、この戦乱を終わらせなければ。』…と。

 

いつもと同じ調子で日記を書き終えるアグリアスさん。

トントン、と肩を叩きながら、ふとアリシアのベッドを見やると、ちょこんと置かれた日記。

他人とは言え、部下だからあまり遠慮もないのでしょうか、

何の躊躇もなく、ひょいと日記を手に取るアグリアスさん。

何をあんなに嬉しそうに書いていたんだ…えぇと。

 

 

ー処女の月七日晴れー

 

『今日も朝も早くから出発…、魔物が出ないのはいいんだけどその分歩き通しだから疲れちゃうわ!

こないだ馬車が一個壊されてから、アタシいっつも歩かされてるのよね、

でもおかげで今日はラッドに背負ってもらえたから、ちょっとラッキーかな?えへへ。

 

 

「キャーーーーーー!!」

突然の金切り声に、驚いて振り向くアグリアスさん。

と、振り向いた時には既に、物凄い勢いで飛びかかって来るアリシアに日記を取られていました。

泣き顔のアリシアさん、頭から風呂上がりと怒りの湯気をたたせ、怒る怒る。

 

 

 

「ひどいッ!ひどいじゃないですか、他人の日記を勝手に!」

「そ、そんなに怒るな。ちょっと気になっただけなんだ、すまない。」

「ちょっと、じゃないですよ!どこまで読んだんですか!」

「いや、初めの方をちょっと…随分かわいい文章を書くんだな、と。」

「よけいなお世話です!あぁ、もう…信じられない……!」

「隊長、それはしょうがないですよー、アリシアの日記は見せる日記なんですから♪」

「ラヴィアン!!」

「えぇと、あぁ、そうだアリシア。」

「なんですか!!」

「『今日みたいに団体部屋に別れちゃうと、できなくてちょっぴり残念。』って、なにができないんだ?」

「!?し、知りませんッ!」

 

後ろで笑い転げるラヴィアンに一層赤くなるアリシアさん。

何かやり返してやらないと気が済まない、とばかりに必死で考えを巡らせます。

そしてテーブルの上にある、もう一つの日記を見つけると

 

「じゃあ隊長の日記も見せて下さい!それでお互い様ですっ!!」

 

なに…?と顔を歪ませるアグリアスさん。

調子にのるな!と叱りつけようとも思いましたが、何ぶん彼女の剣幕の凄まじいこと。

まぁ悪いのは自分だし、読まれて困ることもないから…、好きにしろと了承します。

あっさり了承されて、ちょっとがっかりするアリシアさん。

ともあれ、ラヴィアンも混ざると、パラパラとページをめくっていきます。

 

しかし、しばらくすると二人はまたしてもニヤニヤしだし、あまつさえこちらをチラチラと見て来るので、

何がおかしいんだ、と怒鳴ろうとしたアグリアスさんにラヴィアンが一言。

 

「隊長~、隊長ってラムザさんのこと、好きなんですかあ?」

「なッ……!?」

 

突然でてきた名前にぽっ、と赤くなるアグリアスさん。

そこにアリシアが追いうちをかけます。

 

 

「だって、この日記、クスクス…、ラムザさんのことばっかり、書いてありますよ、ぷふふ…。」

「なに、何を馬鹿なこと…!」

 

さらに真っ赤になり、ひったくるように日記を取り上げるアグリアスさん、慌てて自分の文を読み返します。

無意識のことだったのでしょうが、言われてみれば確かにどこを見ても、書かれているのはラムザのことばかり。

そんな彼女へ、調子にのった部下の追いうちが続きます。

 

「他の人とは感情の入れこみ様が、天と地の差ですね~。」

「ラムザさんは『ラムザがおまじないをかけてくれた。』なのに、

ムスタディオだと『ムスタディオが援護射撃してきた。』だもんねー。」

「それに今日の日記もすごかったわ。『馬車で目が覚めたら、ラムザの肩にもたれかかっていた。

暖かかったのでそのままもう一度休ませてもらった。』ですって、キャー!」

「私のなんか比較にならないわ、あんなこと書かれたらもぉ誰でもイチコロですよ♪たいちょ…」

 

 

ちょっと調子に乗りすぎたことに気付いたふたり、しかしそれはかなり遅すぎたようで、

剣を抜くアグリアスさんの姿を最後に、彼女達の意識は飛びました。

 

 

 

 

「…でもまぁ、隊長はラムザさんのことをお好きなんですよね。」

「…まだいうか。」

 

何となく正座しつつ、ふたりは再度挑戦。

部下としても上司には是非幸せになって頂きたいですから、

などととにかく理由をつけて、このぎこちない恋を進展させようと試みます。

なにしろこんなに面白い取り合わせはめったにありませんから。

 

「でもせっかく美男美女の取り合わせなのに…。」

「ねぇ。」

「……む。」

「おふたりとも静かな気質ですから、気も合いそうですし。」

「ねぇ。」

「……まぁ……な。」

「それに、ラムザさんも結構ポヤ~ッとしてますから、隊長みたいにグイグイ引っ張っていくタイプが。」

「ねぇ。」

「……そうかな。」

「あ、あと隊長、家事まったくできませんから!ラムザさんみたいな人がピッタリですね。」

「ねぇ。」

「…………。」

「そうすると年齢がねー…なんとなく、婚期を逃した年増に喰われた、みたいな形になっちゃうかしら…。」

「…ねぇ…。」

 

…チャキ。

 

「あっ、いえ、そのとても、若々しいカップルですし、ねえ。」

「うんうん!あの…、隊長、剣はしまって…。」

 

 

 

「…それでなにをしろというんだ……。」

 

話の流れでついつい聞いてしまうアグリアスさん。

そこに待ってましたとばかりに乗ってくるラヴィアン。

 

「交換日記です!」

 

コウカンニッキ…?

案の定キョトンとした顔のアグリアスさん。

「つまりですね、仲の良い男女が一つの日記に交代で互いの日常を書き記すんです。

それで、それとなく相手への想いを書いて親睦を深めると言うわけです、アリシアみたいに。」

「そうか、それでアリシアの日記にはラッドのことばかり書いてあるのか。」

 

あんたに言われたくないわよ。

と、思いましたがそこは二人とも、ぐっとこらえます。

 

「しかし私もラムザも別々に日記を書いているんだぞ。」

「いいんです、交換すれば変わりませんから。要はその、ラムザさんラヴ~な日記を見せちゃえば。」

「こ、こんな日記見せられるか。」

「…さっきまで平気で見せてたじゃないですか。」

「と、とにかく駄目なものは駄目だ。私はもう寝るぞ。」

 

ばさっ、と毛布をかぶってしまうアグリアスさん。

しかし、もちろんアリシアもそこで逃がしたりはしません。すかさずとどめを刺します。

 

「…隊長~、ラムザさんの日記、見たくないんですか?」

 

 

 

……ピクリ。

 

 

「ラムザさんも、内に秘めてそうな感じですから…、日記に熱い想いをぶつけてるかも知れませんよ~?」

「アグリアスさんのことを考えると、夜も眠れない…!とか。」

「今日も気が付いたらアグリアスさんを見ていた…、とか。」

「いけない、僕達にはやらなきゃいけないことがあるのに…!」

「この想いを抑えきれない!」

「あぁ!アグリアスさん!!」

 

ムクリ。

 

「あれ、隊長、どうしました?」

「いや、湯を浴びるのを忘れていた。もう皆上がった頃だろう、ちょっと行ってくる。」

 

何故か日記を持って出ていくアグリアスさんを、上司思いの部下は腹をおさえて見送りました。

 

 

さて、

部屋を出ると、そそくさとラムザの部屋へ向かうアグリアスさん。

ドアをノックしようとして、部屋の中から聞こえてくる騒ぎ声に、初めて今日はラムザも団体部屋であることに気付きます。

流石にこの中に入って、ラムザと話す気にはなりません。

どうしたものかと、ドアをにらんでいると後ろからポンと肩を叩かれます。

「アグリアスさん、どうかしましたか?」

「あ、ラムザ…!」

ほかほかと湯気を立て、髪は湿気を帯びている様子から、彼も湯上がりのようです。

何となくラムザの入浴姿を想像してぼおっとしてしまうアグリアスさんですが、

ラムザの注意はめざとくその手に抱えられているものにと向きます。

 

 

 

「本…?アグリアスさん、それ何の本ですか?」

「…え、あわっ、こここれは、わ…私の、日記だ。」

「あぁ、アグリアスさんも書くようになったって、言ってましたね。どんな日記書いてるんですか?」

「え……、見たいの…か?」

「…?えぇ、見せていただけるんなら、是非。」

「………そ、それなら、お前のもちょっと見せてもらえないか?それでその…お互い様だから…。」

「…そうですか?じゃあ、ちょっと持ってきます。

…でもなんだかこういうのって、交換日記とかいうんでしたっけ?僕初めてだなぁ、あはは。」

 

からからと笑うと、部屋に入っていくラムザ。

そんな彼とは対照的に、心拍数が上がりっぱなしのアグリアスさん。

日記をぎゅうっと胸に抱えて、ラムザが出てくるのを待ちます。

一分が一時間にも感じられ、誰かが見てないかとあたりをキョロキョロ、まったく落ち着きません。

やがてドアが開き、分厚い本を抱えたラムザが出てきます。

 

「お待たせしました、ちょっと荷物の奥の方に入ってしまってたもので…、

ハイどうぞ、でもなんだか、ちょっと恥ずかしいですね…。」

「…あぁ…、随分、量が多いな…。」

「えぇ、僕が騎士団を脱退した時から書いているんですよ。」

 

(騎士団を脱退した頃、と言うと…私と出会った頃にはもう書いていた、ということか。

と、ということは、ラムザが私をどう想っていたか、分かる…かも…。)

ドキドキしながら本を開くアグリアスさん。

すると、最初の見開きの白紙の部分に、いくつもの名前が記されています。

 

「これは……?ティータ…ハイ、ラル?…ミルウーダ=フォルズ…誰の名前だ?(どこの女だ?)」

「それは僕が守りたかった、守ることのできなかったこの動乱の犠牲者の名前です。」

 

 

ラムザの方を見なくても、彼が笑顔をたたえているのがアグリアスには分かりました。

そのまま、黙ってアグリアスは死者達の名前に目を通していきます。

彼女も知っている、戦死した仲間達、そして敵として戦った者達の名前までが記されていました。

そして最後に…

 

「……ダイスダーグ卿は…犠牲者、だったのか?」

「……えぇ。

確かに兄はこの動乱を利用しようとしていました。そして父上すらその手にかけました。

でも、それでもわかるんです。兄さんは根底では父上を愛していました。

そして、ベオルブの名を何よりも愛していた。その為に、犠牲になったんです…。」

 

 

あぁ……ああぁぁ……わ、私…は……わたしは……!

 

 

顔面蒼白のアグリアスさん、ラムザの声ももはや聞こえていません。

「あぁ、そうだ。アグリアスさんの日記も見せて頂いていいですか?」

そういって、ラムザが本を抱えている手に触れると、ビクッと震えて、

 

「あ、あぁぁぁ!!すまない、許してくれ!!私はっ、わたしはーーーッ!」

 

バシっとラムザの手を払い除けると、アグリアスさんはおびえるように逃げ去ってしまいました。

残されたラムザ、わけがわからず為す術もなく立ち尽くします。

 

父上……女の人って…わかりません………。

 

 

 

部屋に駆け込むなり、剣を抜くと自らの日記を一刀両断するアグリアスさん。

そしてガンガンと壁に頭を打ちつけ、神に懺悔します。

 

「私はっ、私はなんたる不埒な!人々の苦しみもわきまえず!騎士と言う立場も忘れ!

こんな色事にうつつを抜かし、己の役割をなんと心得ているっ!!お許しを!オヴェリア様!

神よ、どうかお許しをーーーーーーッ!!!」

 

鈍い物音に、何事かと、もそもそとラヴィアンとアリシアが目をさまし、

寝ぼけまなこで、アグリアスの持ってきたラムザの日記を見つけ、その内容と彼女の行動に首をかしげます。

「……どうしてこの日記を読んで、あぁなるのかしら?」

 

 

もちろんそこには、アグリアスさんのことばかり書いてあったわけですが。

 

~fin~

 

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