FFT_SSの日記

インターネッツにあるFFTのSSや小説を自分用にまとめてます。

【FFT SS】不器用な二人

 

ラムザがでていってしまった。

 

きっかけは些細なことだった気がする。

話の最中に、いつの間にか言い争いになっていた。

私は興奮して、ラムザに非難を浴びせた。

いつもの様にラムザが折れて謝り、そんな彼を慰めてやって

優しくしてもらえるつもりだった。

でも彼の態度は予期しないものだった。

 

………僕達、まちがっていたのかもしれない。

 

 

そういうと、彼はでていった。

かっとなっていた私は、その寂しげな背中に罵声を浴びせた。

すぐに帰ってくると思っていた。外は激しい雨が降りしきっていたから。

 

床につく前にドアにかけていたカギを外した。

そうして寝室で横になり、彼がそっと潜り込んでくるのを待った。

入ってくるのはすきま風ばかりだった。

 

 

 

翌朝、いつもの様に朝に弱い彼を起こそうとして、空の布団に気がついた。

下におりると、無意識に朝食をふたり分つくった。

見栄えの悪い料理を褒めてくれる彼の声はなかった。

テーブルに頬杖をつき、ドアを見つめていた。

雨音の中、時間だけがすぎていった。

彼のことを思う。

雨に濡れているのだろうか。

あんな薄手の格好で飛び出して、風邪をひいていないだろうか。

彼のことを想う。

私に愛想をつかしたのだろうか。

もう帰ってきてくれないのだろうか。

 

何度も彼が帰ってくる夢をみた。

いたずらをして、しかられた子供のような笑顔。

私は彼の頭を撫でてやり、その胸に抱かれる。

目覚める度、私は泣いた。

どうして彼にあんなことをいったのだろう。

彼がすることはいつも正しかったのに。

彼はいつも私のことだけを想ってくれていたのに。

ふたりでつくった小さな家が、とても広く感じた。

 

 

七日目、ひどい夢を見た。

帰ってきたラムザ。けれどその隣にいる美しい女性。

荷物を取りにきただけだから。

冷たい彼の一言。

悪いことばかりが頭に浮かぶようになった。

 

久しぶりに鏡をみる。

枯れ木のような顔が映っていた。

自分の頬を叩く。

彼が帰ってきた時に、こんな顔をしていちゃいけない。

私は誇り高き、ラムザ=ベオルブの妻なのだから。

料理の本をとった。

最高の料理を作って出迎え、そして彼に謝ろう。

 

 

彼がいなくなって一月も立った日のこと。

呼び鈴がなった。

最初は何の音なのか理解できなかった。

ハッと気付いて、足をもつれさせながらドアにかけよる。

ラムザ、おかえりラムザ!

戸を開けると金色の髪。

けれどそこにいたのは、悲痛な顔をしたムスタディオだった。

 

 

 

 

 

ムスタディオから異端者狩りの噂を聞いたのは、一月前のことだった。

 

 

重傷で床にふせているディリータの代行として権威を握ったのは、

熱心なグレバドス教信者の家臣だった。

彼はディリータが抑えていた異端者狩りを再度強化し、

ご大層な名分の元、軍を国中に派遣していた。

事情を知ったムスタディオは、急遽内密にオヴェリア様と謁見した。

何でも男はオヴェリア様すらないがしろにして、権力にしがみついているらしい。

どうやらちょっとした反乱勢力が形成されているようだ。

ディリータさえ王位に復帰すれば、この自体は治められる。

それまでは、何とか身を潜めていてほしい、ということだった。

異端狩りとなれば、まっ先に標的になるのはこの僕だろう。

事実、僕の所在はもう大体突き止められてしまっているらしい。

ムスタディオは焦っていたが、僕には正直初めから予想していたことでもあった。

だからこそ皆と別れて、人里はなれたところに住み着いていたんだ。

 

そして七日前。

山腹に陣営をはっている連中を見つけた。

いずれ僕達の住処を嗅ぎ付けるだろう。

もう時間に猶予はないようだ。

 

 

 

「どうしてそう頑固なんですか…!」

 

話の途中で、わざとアグリアスにつっかかる。

案の定彼女は怒り、声を荒げてくる。

「頑固なのは生まれつきだ!」

そして僕は、そんな彼女の神経を逆なでする。

「…昔は、こうじゃなかったのに。」

アグリアスはテーブルに拳を叩き付ける。

 

「そんなに私が気に入らないなら、他所で綺麗な女でも見つけてくるんだな!

 私なんかより、ずっとお前に尽くしてくれるだろうさ!!」

 

…頃合かな。

ごめんねアグリアス、どうかさびしがらないで。

でも、君のことだからこうでもしないと、きっと僕についてきてしまうだろう?

 

………僕達、まちがっていたのかもしれない。

 

そう言い捨てて、外に飛び出す。

あぁやっぱり、後ろで怒鳴ってる。

本当にごめんね。

君のこと、心から愛してる。

だから少しの間だけ……、さよなら。

 

 

崖の上から、敵陣を見下ろす。

人数は百人といったところだろうか。

こっちは一人、か。

自嘲的な溜め息がこぼれた。

まあいいさ、僕だって死ぬ気なんかない。

懐から、ラファにもらった薬を取り出し、眼下にばらまく。

しばらくして見張りがひとり倒れた。

時間だ。

薬指にはめた指輪に口付ける。

もう一つの指輪の持ち主を想い、僕は崖を下った。

 

 

 

……あれ。

 

おかしいな。

こんなはずじゃ、なかったのに……。

アグリ…アス……。

 

 

 

 

 

 

「立ち話もなんだ、入ってくれ。今、茶をいれよう。」

 

 

そこまではなすと、アグリアスさんは俺の話を制止し、家に引っ込んだ。

ずいぶん落ち着いたもんだ。

てっきり取り乱すものかと思っていたんだがな。

まあ、その方がやりやすい。俺は話を続けた。

 

「…少し前に、無事ディリータが復帰してな。

 すぐさま異端狩りは中止、権威を握っていた大臣は牢獄いきさ。

 反乱分子もみんなお終いってわけだ。

 そのへんはディリータの手腕に感謝ってとこだな。

 

 それで俺は、ラムザを追っていた奴らを見つけて何気なく接触した。

 ところがどういうわけか、どいつもみんな妙にボンヤリしててな。

 一人だけ嫌にオドオドしているやつがいたからそいつに話し掛けてみたんだ。

 とにかく錯乱していたがな、大体のことはわかった。

 討伐隊の連中は、ラムザにラファお手製の忘却香を嗅がされたみたいだ。

 そいつは逃げようとして崖に落ちかけたところをラムザに助けられたらしい。

 だが、あいつは代わりに崖から…

 

 …あいつらしい話だよ、自分を殺しに来た相手を、殺すどころか逆に助けやがった。

 水音を聞いたといっていたから、落ちたのは川のようだけど、半端な高さじゃない。

 とにかく、今メリアドールやオルランドゥ伯が捜索にいっているから、

 助けに行きたい気持ちは分かるが、アグリアスさんはここで…待っていて欲しい。」

 

 

チラリとアグリアスさんを見る。

ふざけるな、と怒号が飛ぶかと思ったが、ここでも彼女は落ち着いたものだった。

それどころかとんでもないことを言い出した。

 

「わざわざありがとうムスタディオ、よくわかった。

 伯達に伝えてくれ。ラムザは探さなくていい、と。」

 

「なっ…!?」

一瞬耳を疑った。

何言ってんだ?

あんたを心配して言わなかったけどな、

あいつが落ちたのは、魔物がうようよしてるんで誰も近寄らないようなとこなんだぞ。

 

…まさか。

 

「アグリアス!あんたまさか…」

「諦めてなどいない。」

「……?」

「いってるだろう、よくわかった、と。

 心配するようなことは何もない、ラムザはじき戻る。」

「………」

「だいぶ暗くなってきたな。

 ムスタディオ、せっかくだから夕食でも食べていったらどうだ?」

 

 

 

俺は呆然としていた。

なんでそんな平然としているんだ。

あんたあいつの女房だろ。

心配するようなことはないだと。

あいつが誰の為に戦いに行ったのかわかってるのか。

あんたが冷静な騎士様だってのは知ってるさ。

けどな、こんな時にもそれを押し通すつもりなのか?

……勝手にしろ。

 

俺は黙って席を立つと、薄情者に一瞥してドアに手をかけた。

 

いや、かけようとした。

ドアは勝手に開かれたから。

そこにいた、ラムザによって。

 

 

 

 

 

 

 

ベッドに横たわるラムザ。

彼の肉体には無数の切り傷と、崖から落ちた時のものであろう深い傷痕があった。

アグリアスはその身体に優しく布をまいていく。

彼女は何も言わない、こっちを見ようともしない。

 

「…アグリアス、怒らないのかい?」

「………」

「 ムスタディオから……聞かされたんでしょう。」

「……あぁ。」

「…ごめん。」

「謝ることはない、彼の話を聞いて、お前に愛想をつかされたわけじゃないとわかって安心した。」

「そんなこと……。」

「怒ってなんかいない。強いていえば…。」

「……?」

「せっかく料理を勉強したのに、この様子では当分は粥しかふるまえない…というのが、

 …少しばかりしゃくだ。」

「……ふっ、ははは…。」

 

 

突然、彼女は手をとめた。

 

「……やっぱり。」

「……え。」

「…だめだ。」

「………」

「私…、考えていたんだ。ラムザがいない間ずっと。」

「…何を…?」

「ラムザのことを…。

 どうして帰ってきてくれないのか。私のことが嫌いになったのだろうか、…とか。

 お前のこと、疑っていたんだ。

 でも、やっぱりそうじゃなかった。

 お前が出て行ったのは私のためだった。

 結局私はラムザのことなんか何一つわかっていなかったんだ。

 自分のことばかり考えていたんだ。

 ……だから、怒らない。怒れない…って」

「…アグリアス。」

「だ……けど…、」

 

突然顔を上げ、キッとラムザを睨むアグリアス。

その目には涙が浮かんでいた。

 

 

「怒ってる!怒ってるさっ!」

「………!?」

「お前はいつも正しいって思ってた…、でも違う!

 こんなことをするのが私のためだと…、本当に思ったのか!?

 とんでもない大間違いだ!こんなの、ちっとも嬉しくなんかないっ!

 ひとりぼっちで目覚めるのも!

 ひとりぼっちで歩くのも!

 ひとりぼっちで生きるのも……ごめんだ!」

「………」

「…わかってる、それが私を想ってしてくれたことだって。

 …悪いのは私なんだ!

 お前があんなことを言い出した時に、お前が苦しんでいた時に、

 何もわかってやれなかったから!

 だから、怒ってる!お前にも、何より自分に!!」

 

 

「アグリアス…。」

「だけど…だけどっ、もう、そんなことしないから…。ラムザの言うこと…何でもきくからっ!

 どこにも行かないで…黙っていなくならないでくれっ…!

 私を捨てないでくれ!ラムザのそばにいたいんだ。

 

 …お願い、だから…、ひとりに…しないで………。」

 

 

ラムザの襟にしがみつき、子供のように懇願する。

常に冷静、気丈な聖騎士アグリアス。

けれどそこにいたのは、愛するものを見失った悲しさに涙する…ただの女だった。

締め付けられるような切なさ、そして罪悪感。

胸の奥から沸き上がる、とめどない感情。

ラムザは思わず折れんばかりに彼女を抱きしめた。

力を加えれば壊れてしまいそうな、

ガラスのような、儚い感触。

 

「……ごめん、ごめんね…アグリアス。」

 

 

 

泣かないで。

君が悪いんじゃない。

自分のことしか考えていたのは僕の方だったのだから。

可愛いアグリアス。

愛しいアグリアス。

わかってやれていなかったのは僕の方だったのだから。

 

彼女を抱いたまま、彼はその耳元に囁きかける。

 

「…アグリアス…さっきムスタディオに向かって、

 僕を探す必要はないっていってたよね…。」

「………ん。」

「どうしてそう思ったの…?」

「……ラムザは…お前が出て行ったのが…私のためなら…、

 お前がこのまま戻らないわけがない…と思ったんだ。

 …お前はいつも私のことを優先したから。

 そんなお前が、このまま私を放っておくなんてこと、絶対にしないって…。」

 

 

 

アグリアス……。

 

「ありがとう。」

「え……?」

「…君はやっぱり、僕のことを一番よくわかってくれてるよ。」

「……そう、か…?」

「だから…もう一つだけ知ってて欲しい。」

「………」

「……僕だって、貴方なしじゃ生きていけないんだよ…。」

「………」

「…君を愛してる。だからずっと離したくない、離すわけ…ない。」

「……ラムザ…。」

「……ん?」

「……私も…愛している。」

「……よかった。」

「……うん。」

 

ラムザは悪戯っぽく笑う。

ふと、アグリアスはその頭に手をやる。

指に優しく絡み付くくせ毛。

涙でぼやけた視界。

まるで夢の続きを見ているような気分に、アグリアスは酔いしれていた。

 

 

 

「…ところで、」

「……うん。」

「お互い愛を確かめあったところで、一つお願いがあるんだけど。」

「……なあに?」

「……お腹がすいたから…、アグリアスのこげたお粥が食べたいな…。」

「……言ったな。」

「…あははっ。じゃあ、作ってくれる?」

「…もう少し、こうしていたい。」

「……そろそろ傷口が開いちゃうかも。」

「それぐらい我慢しろ…こんな美人、滅多に抱けないぞ。」

「…アグリアス…。」

「……ん。」

「…ただいま。」

「おかえり…ラムザ。」

 

 

男はそっと女の頬に手を添え、その涙を拭ってやる。

女は全てをその手にゆだね、安らかに目を閉じる。

ふたりはお互いの温もりを確かめあうように、何度も唇を重ねる。

真っ暗な寝室。

語り合う幸せな声だけが、いつまでも響いていた。

 

~fin~

 

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