【FFT SS】わがままな彫刻
陽が雲ひとつない夜だった。
のぼりきった月が、眠りについた街を照らしている。窓からの景色は妙に美しい。
安宿の一室。祖末なベッドに横たわりながら、私は首を持ち上げ、自分を抱いている男の顔を
見上げた。
ラムザが背中に這わせていた手を止めて、笑いかける。
続きを読む【FFT SS】冬の空を見上げて
陽が遠く地平線に顔をあらわした頃、アグリアスは静かに目覚めた。見なれた壁の風景。窓辺からは
鳥のさえずりが聴こえる。
ほんの少し寝床に未練を残しながらも、彼女はすぐさま毛布を払う。途端に部屋に立ち篭めていた
冷気が衣服の隙間から入り込み、彼女の胸を震わせた。冬がしみじみと身近に感じられる。
続きを読む【FFT SS】不器用な二人
ラムザがでていってしまった。
きっかけは些細なことだった気がする。
話の最中に、いつの間にか言い争いになっていた。
私は興奮して、ラムザに非難を浴びせた。
いつもの様にラムザが折れて謝り、そんな彼を慰めてやって
優しくしてもらえるつもりだった。
でも彼の態度は予期しないものだった。
………僕達、まちがっていたのかもしれない。
続きを読む【FFT SS】日記騒動
ー処女の月七日ー
『ここ数日は天候に恵まれ、魔物との遭遇もほとんどなく、思いのほか早くザランダに到着する事ができた。
先に派遣した武術大会に出場した者達の帰還を待つため、二日ほど滞在する……
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スラスラと、端正な字で旅の行程を書き綴るアグリアスさん。
彼女はもともと、日記というものにあまり意味を感じなかったのですが、
ラムザと行動を共にして以来、そういった彼女の人生観は大きく変わりました。
続きを読む【FFT SS】クッキングアグ
五人がバリアスの谷の外れにある、粗末な木賃宿に落ち着いた時には、
日もすでに暮れかかっていた。
「あー、疲れた。アグリアスさん、なんかメシ作ってくれよ」
ブーツを脱ぎ捨て、ベッドに体を投げ出すようにしてムスタディオがうめく。
ウォージリスで待つラムザに、ザランダで聞き込んできた北天騎士団の動きを
一刻も早く伝えようと、夜を日に継いで強行軍で歩き続けてきたのである。
続きを読む【FFT SS】女騎士二人
「ラヴィアン、確か午後から買い物に出ると言っていたな?」
革鎧のつくろいをする女騎士ラヴィアンの背後から、声をかけてくる者がいた。
振り向くまでもなく、声で誰かはわかっている。ちょうど手首の合わせのむずかしいところに
かかっていたので、ラヴィアンは目をすがめて太い針の先をにらんだまま答えた。
続きを読む【FFT SS】密猟グルメ
疲れきった体でドグーラ峠をようよう越えた矢先にキングベヒーモスに出くわしたのは
災難だったが、オルランドゥ伯のおかげで何とか撃退できた。
「ザーギドスでの楽しみができたぜ。いやいや、角はもっと根元から切るんだ。
太さで値段が決まるんだから」
小山のようなキングベヒーモスの背中から、ラッドが手慣れた調子で指示を出しながら
鉈をふるっている。その傍らで、諸肌をぬいで汗をぬぐっているオルランドゥに、
アグリアスはあらためて頭を下げた。
「感服しました。ほとんどお一人で、これを仕留められるとは」
「なんの、なんの」たくましい肩を上下させつつも、老剣豪は上機嫌である。「それより、
ランドリア山でベヒーモスとは運がよかったな。今晩が楽しみだ」
「今晩?」
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