FFT_SSの日記

インターネッツにあるFFTのSSや小説を自分用にまとめてます。

【FFT SS】彼女の心の安らぎは

 

メリアドールがラムザ一行に加わって少したった頃…

それは、貿易都市ドーターへ向かう手前にある森の中で起こった。

 

一度は敵対し、ラムザの命を奪う事に執念を燃やしたメリアドールは

今では和解しラムザ達と行動を共にしていた。

 

 

ラムザは気にしていないと言うが、命を狙っていたのだから

彼女は少なからず彼に対して負い目を感じていた。

だが彼や周りの者たちの気遣いによって癒されていく…。

そんな旅に居心地の良ささえ感じるようになり、

「こんな時間が永遠に続けば…」とさえ思えるようになった。

 

まだ心の中では、弟を失い、信じていた父さえももはや父ではなかった事を

悲しむあまり、真夜中に目を覚ます事も少なくなかった。

さらに神殿騎士団からは「裏切り者」として命を狙われる有様。

もはや自分にはここ以外に居場所が無い事も分かっていた。

そんな時、自分を正しい道へ導いてくれて、安らぎを与えてくれるラムザに、

尊敬の念とは別の、淡い感情が芽生えていた。

 

しかし彼女はラムザが別の女性に惹かれている事もなんとなく感じていた。

アグリアスという女性。

自分と同じ騎士であり、自分にはない精神的な強さも持ち合わせた美しい女性。

そして女の勘からか、彼女もまたラムザに密かに心を寄せている事を感じていた。

そんな2人の間に割って入れるほど積極性がないメリアドールは

遠くから見つめるだけで、ただ時間に流されるに任せていた…。

 

異端者としてイヴァリースに安住の地がないラムザは

目先の利益を期待して現れる賞金稼ぎに命を狙われる事も少なくなかった。

そしてまた同じ事が起こっている。

しかも不運な事に、集団のならず者達に不意を突かれ退路を断たれていた。

 

「…ラムザ、完全に囲まれたぞ」

アグリアスが努めて冷静に、敵を真正面に見据えながら横目でつぶやく。

「あいつら、なにか持ってやがるぜ」

ムスタディオが注意を促すように話す。

彼らの手には一様に爆弾のようなものを持っている。

「さあ、無駄な抵抗は止めて大人しくしてもらおうか」

「そうそう、じゃなけりゃお前達みんな、ここでドカーンだ!わははっ」

いかにもずる賢そうな小男がにやにや笑いながらほざいている。

「おっと、あの綺麗な女には手をだすなよな」

「分かってるって。」

彼らは人数で勝っているためにやにや笑うだけで油断しているようだ。

 

「…どうする?」

アグリアスがラムザに小声でつぶやく。

「…8人か。僕にアグリアスさん、オルランドゥ伯、

ムスタディオにベイオウーフさん、

そしてメリアドールもいる。僕達の力なら何とかなるよ」

 

「後ろから来ている仲間達の合流は待てないの?」

メリアドールが不安そうに聞き返す。

「そんな時間は無いよ。やるなら油断しきっている今しかない」

ラムザが小声ではあるが、強い口調で言う。

「うむ、それしかあるまい」

オルランドゥ伯が太鼓判を押すように同意する。

「よし、僕が降参するように剣を置くから、

その瞬間に攻撃開始、一撃でしとめる事、

オルランドゥ伯、アグリアスさんは2人お願いするね」

「…分かった」

アグリアス達は互いに目配せしてうなずく。

 

「どうした?降参するのかしないのか?」

隊長らしきバンダナの男が強気の口調で言い放つ。

「くっ…僕が降参すればみんなの命は助かるのか?」

「それは約束しよう」

「…分かった…降参する証に剣を置くからみんなには手を出さないでくれ」

ラムザはそう言って片膝をつき、そして剣を置いた―――

 

その瞬間!

仲間が一気に飛びかかり敵を瞬く間に切り倒していった。

「無双稲妻突き!!」

ズバァン!!!

アグリアスの放った剣撃により男達が断末魔の悲鳴をあげて崩れ落ちた。

ベイオウーフやオルランドゥ伯達も一瞬にして敵を屠っている。

あっという間に仲間を倒され、うろたえる隊長らしき男に

ラムザも剣を持ち直し一刀両断した。

 

作戦は成功したかに見えた…

しかし、ただ一人の敵、まだ幼さを顔に残した青年が立っていた。

うろたえてはいるが、彼の手には爆弾が握られている。

爆弾が爆発すれば元も子もない。死者もでるだろう。

その敵を倒すはずは、一番近くにいるメリアドールだった。

「何をやっている!!メリアドール!!斬れ!斬るんだ!!」

珍しくラムザが感情を剥き出しにして大声で怒鳴る。

 

 

爆弾を目の前にしてラムザ達に緊張が走る―――

 

「あ…あぁ…」

メリアドールは弟イズルードと同じ年頃の、まだ幼さを残す青年を見て

ただ、立ち尽くしていた…。

敵はようやく落ち着きを取り戻し、不敵な笑みを浮かべ爆弾に火を付けようとする!

 

(だめかっ)

 

誰もがそう思った瞬間、

「聖光爆裂破!!」

飛び掛って叫びと共に剣撃を放ったのは剣聖オルランドゥだった。

敵が動き出すよりも一瞬早く

彼はメリアドールが敵を斬る事ができない事を悟りその間を詰めていたのだった。

 

「ぐわぁぁぁーーー!!!」

光と衝撃に包まれ、敵は膝から崩れ落ちた。

 

ようやく森に静寂が訪れ、ラムザ達は落ち着きを取り戻す。

少し間を置いてからラムザがメリアドールに近づく。

目は並々ならぬ怒りに満ちている。

「…ご、ごめんなさい…私…」

ラムザの顔に少し驚いたように身をすくませる。

 

「なぜ攻撃しなかった!?失敗は許されない事は分かってたはずだ!」

「ご、ごめんなさい…彼を見たら、弟を思い出してどうしても攻撃できなくて」

オルランドゥさんが何とかしてくれなきゃ、僕たちは死んでたかもしれないんだぞ!」

「そんな事でこれからの困難に打ち勝てるものか!

ましてやルカヴィを倒す事などできるはずが無い!!」

 

ラムザは怒りに任せて早口でまくし立てる。

周りの者たちも、メリアドールのミスが致命的なだけに何も言えずに黙っている。

 

「ごめんなさい…」

メリアドールは泣きそうになりながらこれだけ言うのが精一杯だった。

それを聞いて、ラムザは一瞬悲しそうな顔をしたが、

すぐに険しい顔をしてこう言い放った。

「…除名だ。」

 

「えっ」

メリアドールが思わず聞きなおす。アグリアス達も驚いてラムザを見る。

「君のような戦いに私情を入れる人を仲間にはできない。

そんな事では命がいくつあっても足りないから。」

みるみるメリアドールの顔が青ざめていく。肩をふるふると震わす。

 

「ラムザ、君の言う事は至極最もだが、ここは多めに見れないか?」

見かねたベイオウーフが助け舟を出す。

「…いえ、これは重大な命令違反です。僕が隊長である限りは

僕の意見に従ってもらいます。」

ここまで言われては誰もそれに対し異論を唱える事はできない。

「さぁ、今すぐに出て行ってくれ」

ラムザはそう言い残し、メリアドールに背を向けた。

 

「ああ…」

メリアドールは何か言おうとしたがもはや何を言っても無駄と悟り、

こくりと頷くと、手荷物を背負って静かに去っていった。

中間達は黙ってそれを見送るしかなかった…。

 

彼女が去って、少ししてから後続部隊が到着した。

先程あった事を説明すると皆一様に表情が曇ったが、

ラムザがそう言う以上それに従うしかなかった。

少し先に進んだところで日が傾いてきたので、今日はここで野営する事にした。

アリシアやラファ達が食事の準備をしている頃、

ラムザは一人離れて木陰に座り、少し曇り始めた空をながめていた。

 

「本当にあれでよかったのだろうか…」

自分が正しいとは思っているが、ああ言った自分こそ私情にとらわれ、

こんな憂鬱な気分になろうとは。少し感情的になりすぎたかもしれない。

ひときわ寒い風が肩を撫でるように通り過ぎていく。

 

ふと隣に誰かが座った。

アグリアスだった。こんな近くに来るまで気づかない自分は

本当にどうかしているのだろう。

「後悔しているのか?」

「…」

「黙っていても分かる。お前は優しすぎるからな」

そう言ってアグリアスは微笑む。

ラムザは心の内を見透かされたようで少しばつが悪そうに頬をかいた。

アグリアスは地面を見ながらさらに話す。

「あいつは今でも弟の事を忘れられないのだろう。たとえ戦いの最中であってもな。

…大切な人を失う悲しみ、お前はよく知っている筈だ。

お前や、ディリータという若者、それに…私だって…」

 

アグリアスは、ふともう会えないかもしれないオヴェリアの事を思い出す。

少し物思いにふけったがすぐに話を続ける。

「それは時にどうしようもない事もある。けどそれは時間が解決してくれる。

彼女には時間が必要なだけだ。ラムザも分かっているのだろう?」

アグリアスはじっとラムザの返事を待つ。

 

ようやくラムザは何かを決心したように立ち上がった。

「アグリアスさん、少しの間留守にします。夜か、遅くとも明日には戻りますから」

「ああ、分かった。皆には伝えておく。」

ラムザが立ち去ろうとすると、アグリアスは呼び止めてつぶやいた。

「彼女は今、すごく悲しい、寂しい気持ちだと思う。あいつにはお前しか頼れる人が

いないのだから…。あいつも…お前の事を…」

少し頬を赤らめそう言った後、慌てて後の言葉を飲み込んだ。

ラムザは言葉の最後の方は聞き取れなかったが、

アグリアスの言う通りだと思い、メリアドールが去った方角、

ドーターへ向け走り出した。

 

「はぁ…あいつも、私と同じ気持ちなんだろうな」

自分はラムザに好意を抱いている。そしてメリアドールも。

「なにしてるんだろ…私は」

薄く赤い曇り空を見上げてため息をつくアグリアスだった。

 

その頃貿易都市ドーターでは、しとしとと雨が降り出していた。

もう日も落ち、雨のせいか人の行き交いもめっきり少なくなっている。

暗くなった表通りを雨に打たれながらメリアドールが佇んでいた。

行く所も無い、何処に行けばいいかも分からない彼女は遠くを見つめるだけで、

雨とも涙ともとれぬ滴で頬を濡らし、全身も雨で濡れていた。

 

ふと、暗闇の中にひときわ明るい光を放つ、少々高そうな宿屋の看板が目に入った。

メリアドールは自然と歩き出しその扉を開けた。

宿屋の主人は彼女のずぶ濡れの汚い姿を見て、あからさまに顔をしかめて言った。

「あんたのような汚らしい格好の人は泊めれないよ、他の客に迷惑だから出て行ってくれ」

冷たく言い放たれ、メリアドールは反論もせずうつむいたまま出て行った。

 

「もう…だめ、かな…」

 

もう何もする気がおきなかった。

雨が降りつづける暗闇の大通りで、彼女は呆然と立ち尽くした。

「イズルード…お父さん……ラムザ…」

思い出すのはラムザの笑顔と、そして、怒りに満ちた顔…

家々の明かりがうっすらと彼女を照らす。耳に聞こえるのは雨の音だけ。

体は雨で冷え切り、もう歩く事さえ辛くなっている。

「もう、楽になりたい…」

そうつぶやいた時、不意にぱしゃぱしゃと、雨で濡れた地面を走る足音が聞こえた。

 

やがてその足音は彼女のすぐ近くで消えた。

気配がする。

(あの人が…?)

メリアドールは微かな期待と、そうではないかも知れない不安とで

ゆっくりと、恐る恐る振り返った。

 

そこには、雨で綺麗な髪と服を濡らしたラムザが立っていた。

心臓がどくんと脈打つ。自分にとっての心の拠り所がそこにいる。

「あ…」

メリアドールは「会いたかった」、「ごめんなさい」とたくさん言いたいのに

言葉が出てこない。ただ、肩を小刻みに震わせるのみ。

「…」

ラムザが無言で自分を見つめている。

しばし沈黙が時を支配する。

 

やがて、ラムザが歩み寄りゆっくりと手を差し出した。

「ラムザっ…」

その行為の意図を感じ取ったメリアドールは、瞬く間に涙をあふれさせ

顔をくしゃくしゃにしてラムザの胸に飛び込んでいた。

「ごめんね、メリアドール。僕が言い過ぎた。けど…」

けどラムザはあのミスが致命的だった事、一つのミスが命取りになる事、

戦いには私情は捨てなければならない事をゆっくりと、優しく

まるで子供に諭すかのようにたんたんと話した。

メリアドールはこく、こくと頷いて泣きじゃくるのみだった。

 

言い終えると、ラムザは腕を背中に回してそっと抱いた。ひどく冷たい。

かなり長い時間雨に打たれていたのだろう。

いつもは味方さえも震え上がらせる剣技を使いこなす彼女が

すごく弱々しく感じられた。

 

「もう今日は遅い。この町に泊まろう」

ラムザはメリアドールが落ち着きを取り戻した頃を見計らいそう言った。

ラムザは先程メリアドールが門前払いを食った小奇麗な宿屋を見つけ

彼女を連れて入っていった。

宿屋の主人は今度はずぶ濡れの人間が2人なのに驚き、たちまち不機嫌になる。

ラムザは主人が何か言う前にさっと2人分のお金に色を付けて渡した。

 

「…まぁ、仕方ないか。けどもうダブルルームの部屋が一つしか空いてないぜ」

「それなら彼女が泊まる。僕はそこのソファーでいいよ」

ラムザはそう言うとずかずかと中に入ろうとする。

「だめだだめだ。ソファーでなんて他の客の迷惑だろう?」

「えーっそんな事言わないでよ、外は雨なんだから」

2人の押し問答を聞いていたメリアドールが恥ずかしそうにつぶやく。

「あ、あの私…そ、そのぅ…えっと…」

「??」

 

彼女の意図をラムザが理解する前に主人が彼女のかわりに言った。

「ダブルベッドは広いんだから離れて寝れば問題ないだろう?」

「け、けど」

「じゃ、外で寝な」

さすがに外はイヤなので悩むラムザに、メリアドールが服をつかんで促すので

その好意に甘える事にした。

 

冷えた体を風呂で温めたメリアドールがバスローブに包まれて出てくる。

それを見たラムザは思わずドキッとした。

しっとり濡れた、少し短めの髪を後ろで結わえ、首もとの少し火照った白い肌に目が行く。

さらに目を奪われた所があった。普段厚めの服を着ているせいか

あまりはっきりしなかった胸のふくらみが予想以上に大きかった事だ。

ローブからちらりと見える意外にも深い胸の谷間を見てしまっている自分に気がつき、

思わず目をそむける。

 

「僕も入るから」

そう言ってそそくさと風呂に向かった。

「今日はすぐに寝よう」

そう誓うラムザだった。

 

そして時間がすぎる。ラムザは床で寝ると言ったが、

「それは絶対にだめ」とメリアドールは譲らない。

普段あまり自己主張しないのに、なんでこんな時に、とラムザは思うが

同じベッドでもお互い離れて寝るという事で決着がついた。

少し緊張しながらも2人はベッドの中に入る。

「おやすみ」

そう言いあうとラムザは彼女に背を向け目をつむる。

 

しばらくして、メリアドールがつぶやく。

「ねえ、ラムザ…そっちに…行ってもいい?」

「え?」

ラムザはへ?という感じで聞き返す。

「ラムザの…そばにいたいの」

「で、でも…それはまずいよ」

メリアドールは不意にラムザの腕をそっと抱き寄せる。

「あのね…こ、怖いの。朝起きたら、一人ぼっちになっていそうで…もう一人はイヤだから…」

 

ラムザはメリアドールの気持ちを察した。彼女はひどく震えている。

本当にあの事で堪えているのだろう。

「分かった、僕は何処にも行かないから安心して寝ていいよ」

「うん」

メリアドールはラムザの体にぴたりとくっつくように寄り添った。

「…ありがとう」

メリアドールはそう言って静かに眠りについた。

 

(アグリアスさんが見たらなんて思うんだろう。無関心?それとも…)

隣りのぬくもりを感じながら、ラムザはそんな事を思い、そして眠りについた。

 

翌日―――

雨はやんでいた。

2人は隊に早く合流するため、早朝にチェックアウトした。

宿屋の主人が何かからかい半分に言っていたが軽く聞き流し早々と宿を出る。

隊に合流した時は皆が朝食の準備をしている所だった。

メリアドールの姿を確認すると、皆はラムザの手前、手放しではなかったが

一様に笑顔をほころばせ、その表情が無事帰ってきた喜びを表わしていた。

その後、メリアドールは心の整理がつくまで前線に出ることがなくなったが、

皆の暖かい気遣いと、なによりラムザの心配りのおかげでまた前線で戦えるようになった。

彼女にも笑顔が戻る。

 

今日も戦いを終え、一行が一息ついていた。

体を休めているラムザの横にアグリアスがすっと座る。

「今日のアグリアスさんもさすがでしたね」

ラムザはいつものように話し掛ける。

 

「…ちょっと、話があるのだが」

アグリアスがいつもの会話らしくない返事をする。

「なんですか?」

「この前、メリアドールを迎えに行った時…その日、帰ってこなかったな」

「え?」

ラムザがどきっと身をこわばらせる。

何も後ろめたい事はないのだが、成り行き上ああなった事が嫌でも脳裏に浮かぶ。

そのラムザの変化をアグリアスは見逃さなかった。

 

「なにか…あったのだな?」

「えっ、な、何もないですよ。一緒に…」

一緒に寝ただけ、と言いかけわわっと思わず口に手を当てる。

「隠すと身のためにならないぞ」

アグリアスは笑ってラムザにそう言うが、目は笑っていなかった。

「な、何もないです!あっそういえば僕、ムスタディオに用があったんだった。」

そういってそそくさと立ち去る。

「あっこらっ」

アグリアスの声が聞こえないふりしてすごい速さで消え去る。

「…あやしい」

 

アグリアスとメリアドール、そしてラムザの微妙な三角関係が始まるのだった。

 

 

 

 

~fin~

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