FFT_SSの日記

インターネッツにあるFFTのSSや小説を自分用にまとめてます。

【FFT SS】誰と迷コンビ!?

 

「ふぅ…」

一人の女性がため息をついていた。アグリアスである。

 

(あの一件以来、メリアドールは少しずつ変わっているように思える。)

以前は意見を求められても、周りの大勢の意見に同調するばかりだったのが、

ちょこん、と手をあげ二言、三言ではあるが自分の意見を言うようになってきている。

それはいい傾向だ。

 

 

けど一つ、自分がどうしても気になる所があった。

あの少し遠慮がちだった彼女が、

なにかとラムザのそばに寄ってはあれこれと世話を焼いているのだ。

今日も朝食の時、さりげなく彼の隣りに座っては

彼の食器の中身の減り具合をちらちら横目で見ている。

そしてラムザが自分で食べ物を取ろうとする頃合に決まって

 

「私がとってあげる」

 

笑顔でそう言って彼の食器を手にとるのだった。

ラムザは少し照れくさそうにしているが、嫌ではなさそうだ。

それもそうだろう。そんな気遣いをされて嫌がる人間などいない。

それに、メリアドールのなんと幸せそうな笑顔か。

自分にそんな笑顔ができるのだろうか?

まして彼女のような真似は、恥ずかしくて自分にはできない。

想像しただけで顔が熱くなる。

「ふぅ…」

町へ向かう馬車の中で休息を取りながらアグリアスはそんな事を考えていた。

 

日が空高く登りつめた頃、貿易都市ウォージリスに到着した。

今日はここに滞在するつもりなので、戦いもなくいたって平和な一日だった。

たまにはこんな日がないとやってられない。

皆、そんな気分だった。

ラムザもそれを感じ取っているらしく

今日はゆっくりしようという事で、かなり綺麗な宿に泊まる事にして

その宿が用意する昼食をとることになった。

皆が荷物の整理を終え、席に着き始める。

 

「あっ」

アグリアスは思わずいつものくせで目の前の席に座ってから後悔した。

ラムザの方を見ると

隣りにさりげなく、少し気恥ずかしそうに座るメリアドールの姿があった。

そしていつものように彼の様子をちらちらと伺っている。

「はい、たくさん食べてね」

いつものように笑顔で、彼のお皿におかずをよそっているのだった。

 

(うう…また…)

自然と食事をとる手の動きが止まる。

アグリアスはなぜか、彼女に差をあけられた気がして表情を曇らせ下を向く。

アグリアスが思うほど一般的にはそんな大それた事ではないのだが。

ラムザの方はというと

最近自分に話し掛けてくれるのが少なくなってきており

目が合っても少しも微笑んでくれないので気をもんでいたのである。

 

アグリアスの隣りで飯をがつがつ食っていたムスタディオがぽつりと言う。

「まったく、それぐらいで落ち込むなよな」

「???」

まさか自分の気持ちを見透かされていようとは微塵も思わず

首を傾げるアグリアスだった。

 

食事を終えてもラムザから距離を置くアグリアス。

ラムザも少し気にしてるようだが、特に用もないので自分の部屋へ戻る。

その様子をムスタディオが呆れたように見ていた。

(ほんとラムザといいアグ姉といい、ことこれに関しては全くダメだな)

さて、という感じでムスタディオが一人離れて座っているアグリアスの隣りに座る。

「まったく、アグ姉も奥手だなー」

「??、何がだ?」

「ラムザの事が気になるんだったら隣りに座ればいいじゃんかよ」

「!!な、なななっなにが…だ、誰の隣りが気になるって!?」

いきなり核心をつかれ、

しどろもどろになった上に言葉が意味不明になってしまった。

「ほんと分かりやすいよな、アグリアスも」

くっくっと笑いをこらえている。

 

アグリアスも諦めたらしく反論はしない。

「少し…気になるだけだ。す、好きとか、そんなんじゃない。

…それから…秘密だぞ」

「わかったわかった。まぁ俺はあいつともあんたとも付き合い長いほうだしな。

俺がいい方法を教えてやるよ」

そういって親指をびしっと立ててポーズを決める。

「…ぷっ」

アグリアスが思わず笑う。

「なんでここで笑うんだよ!?かっこいい場面だろうが!」

「すまない、お前がまじめな事を言うのも珍しいのに、そんなポーズ決められてもな」

どうやら真面目な台詞に決めポーズは彼には似合わないらしい。

 

「…で、いい方法って?」

「なに、簡単なこった。ラムザの隣りに座れば万事解決」

それを聞いてアグリアスは呆れたように言う。

「…なんて単純な。それができたら苦労してない」

「それもそうか。…けどこれが一番手っ取り早いんだぞ」

「そんな事できない。他にしてくれ」

「こんな事ができないようじゃ、掴めるものも掴めないぞ、

ほんとにメリアドールに取られちゃうかもなぁ。あいつ可愛いし」

「…」

「な?ちょっと勇気出すだけで気持ちが楽になれるんだ。

早速夕食でやってみろって」

 

ムスタディオにそう言われるうちに、

本当にそれぐらいならできそうな気がしてきた。

(よしっ)

と、心に気合を入れるアグリアスだった。

 

綺麗なオレンジ色の空が少しずつその輝きを弱め、

変わりに星の光が浮かび上がった頃、

アグリアスにとっては正念場の夕食どきとなる。

作戦?どおりラムザの右にはメリアドールが、

左にはアグリアスがさりげなく座り、その隣りにはムスタディオが陣取った。

やがて食事が始まる。

 

「ここの宿の食事、おいしいね」

バトルの渦中にいるのも露知らず、ラムザが呑気に笑顔で言う。

アグリアスは食事を口に運びながらも、ラムザの方を横目で見て様子を伺っている。

自分に意識が行っていないせいか、同じおかずばかり口に放り込んでいる。

やがてラムザが空いた皿をとり、どのおかずをとろうか思案し始めた。

(今だ!いけっアグ姉!)

ムスタディオが目配せするも、

当の本人はラムザの顔ばかり見て皿に目が行っていない。

 

「あのおかずが欲しいの?ちょっと遠いから私がとってあげる」

「あ、うん。ありがとうメリアドール」

(あぐぅ…)

(ぐぁ…)

一回戦は見事に敗北した。

 

気を取り直して、アグリアスは全神経を集中させて次の機会を待つ。

やがてラムザがスープを飲み干しておかわりをするそぶりを見せる。

(きたーーっがんばれアグ姉!)

(よし、今度こそ!)

 

次の瞬間、アグリアスの意外な行動に皆があっけにとられてしまった。

 

「はい!!スープっ取ってやったぞ!!」

スープが入った鍋を、あたかもパンチを出すが如き勢いで

ラムザの目の前に差し出した。

おかげでラムザの顔にスープがかかってしまっている。

 

「あ、あの…アグリアスさん?」

(しまったーーー!!!)

心の中でそう叫びつつもどうしようもない展開に、目も合わせられず

一言謝るだけでしょぼん、とうなだれてしまった。

隣りで関係ないはずのムスタディオまで頭を抱えている。

(なんてこった。ここまで不器用だなんて…)

こういう女性的なアプローチはやっぱり無理だと思い知った2人だった。

 

 

 

 

~fin~

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