FFT_SSの日記

インターネッツにあるFFTのSSや小説を自分用にまとめてます。

【FFT SS】宿屋で大ピンチ!?

 

今日も旅を終え、自治都市ベルベニアに来ていた。

旅の疲れを癒すために一行は酒場で一杯やっていたのだった。

 

みんな思い思いの場所に座り、ひたすら酒を飲む者もいれば

よもやま話に花を咲かせたりと、緊張感から解き放たれる今を楽しんでいた。

 

 

ここベルベニアにくれば必ず出る話題がある。

そう、メリアドールにとっては耳をふさぎたくなる話である。

酔いが回りだした頃、今日もそれが繰り返される。

 

「あのメリアドールの顔!怖いってもんじゃねえんだ。

『ラムザーーっ!!』とか言って剣を振り回すんだからな」

ムスタディオが酒ぐさい匂いを発しながら身振り手振り交えて言う。

 

「そうそう、あたしなんか持ってる物全部壊されたんだから!!」

ラファが酷い目にあった割には明るい声で言った。

 

「うぅ…ごめんって言ってるのにぃ…」

メリアドールはワインの入ったグラスを両手で持っていじけている。

 

「ま、みんなその話題はもうよそうよ、ね!」

隣りに座っていたラムザが見かねてフォローを入れた。

「ラムザ…やっぱり優しい…ありがと」

メリアドールは言った後にみんなの視線を感じ、肩をすくめて恥ずかしがる。

 

「ラムザ優しーいっ。これは…愛の力ね!!」

ラファがからかうように言って、みんなもそれに同調する。

ラムザの隣りに座っていたアグリアスだけが、

むすっとした顔でグラスにワインのおかわりを注いでいた。

 

「あーあーラムザまたいいとこ取りだ。ほんっと冷静な奴だ」

マラークがたっぷり嫌味を込めて言う。彼の目は据わっている。

 

「え?べ、別にそんなつもりじゃないよ」

ラムザはホットミルクを飲みながら応える。

 

完全に酔いが回ってきたムスタディオがそれに割って入る。

「ラムザ、正直言えよ。お前が一番迷惑を被ったんだからさ」

「…」

メリアドールがラムザの沈黙を見て不安そうな顔をしている。

まるで親の顔色をうかがう子供のようにも見える。

 

そして…、

「もうあの事は本当に気にしてないよ」

ラムザはもうこの話題は終わりとばかりにはっきり言った。

メリアドールの顔が思わずほころぶ。

「やっぱ愛の力ね!」

ラファの言葉に関心が無いかのようにアグリアスがワインを飲み干す。

しかし…

 

完全に酔っ払ったマラーク達は納得いかないようだ。

「やっぱ一度吐かすか?」

「そうね。飲んで酔っちゃえば本音言うかも?」

 

「わっちょ、ちょっと何すんだよ。僕飲めないよ!」

マラーク達がラムザを捕まえ、ワインを強制的に飲ませようとする。

「さぁ観念しろ。いつもかっこよすぎる天罰だ!!」

マラークが根に持っていたかのように言う。

 

「わわっ、め、メリアドール!助けてよ!」

「…うう、ご、ごめんラムザ。

私も…ちょっと酔ったラムザ見てみたいかも…」

「ええっは、薄情者ーっ!!あ、アグリアスさん何とかしてよ!!」

「ふん、自業自得だ…」

なぜかアグリアスは怒っている。

 

「ささっラムザ観念しちゃいなさい!!」

ラファが笑いながらグラスを口に押し付ける。

「うううっ酷い…」

誰も助けてくれない事に観念したか、

ラムザは嫌々ながらもようやくワインを飲み始める。

そして飲み干すと…

「どうだ?ワインの味は?」

ムスタディオが興味深そうに身を乗り出して聞いた。

「…苦いし…酸っぱいし…美味しくない」

ラムザは本当に嫌そうな顔をしている。

「で…それだけか?頭くらくらしたりしないのか?」

「え…そ、それはないけど…」

ラムザはなんで?という風に聞き返す。

 

「なーんだ、おまえ飲めるんじゃねえか」

ムスタディオががっかりしながら言った。

マラークもメリアドールも拍子抜けという感じできょとんとしている。

アグリアスは気にしてない素振りをしながら横目でちらり、ちらり。

 

「よーするに、メリアドールへの愛の力よ」

ラファが結論を出す。

 

「わははっ愛の力か。じゃあ酒も飲めるってもんだ」

マラークもラファに続く。

「そ、そんなんじゃないって…」

ラムザは顔を赤くしながら否定するが、まるで効果が無い。

メリアドールは両手の指を絡め、嬉しそうな顔してずっと照れている。

 

「ねぇアグリアスもなんか言ってあげなよ。あはは」

ラファが一人静かに飲んでいるアグリアスに話し掛ける。

すると…

 

どんっ!!!

アグリアスは持っていたグラスを叩きつけるようにカウンターに置いた。

一瞬にして場がしーんとなる。

「あ、アグリアスさん?」

アグリアスの表情が硬い。

ラムザがまだ赤い顔して心配そうに話し掛ける。

 

「…私は部屋で飲む。静かに飲みたいから…」

そう言って、アグリアスはすっと立ち上がりワインを手に部屋へ戻っていった。

その雰囲気に誰もとめる事ができない。

 

「ちょ、ちょっとごめん。」

ラムザは思わず立ち上がってアグリアスを追いかける。

「え?ラムザどこ行くの?」

メリアドールが呼び止めるがラムザも行ってしまった。

 

「ま、いいんじゃね?さ、飲みなおそうぜ」

マラークが固まった場を和ますように言った。

みんなもうなずく。少し寂しそうな顔の、メリアドールだけを除いて。

 

彼らはこの時、ラムザの顔がまだ赤く、足がふらついているのに気づかなかった。

ラムザはアグリアスの部屋の前まで来た。

 

コンコンコン…ドアをノックする。

「アグリアスさん…入っていいですか?」

「…」

「アグリアスさん?」

「…」

もう一度声をかけようとした時、ドアが開いた。

 

「…入れ」

「う、うん…」

ラムザは中に入り、ドアを閉める。

彼は先程のアグリアスの表情が気になっていた。

なにか怒っているような、悲しいような、そんな表情だった。

 

2人はテーブルの椅子に腰掛ける。

沈黙が場を支配する。お互いに話さない。

 

アグリアスはその雰囲気に困ったのか、ワインをグラスに注ぐ。

気づいたらラムザのグラスにもワインを注いでいた。

「あ…飲めなかったな、おまえは…」

「え?…いいよ、さっき飲めたし」

そう言ってラムザはグラスを手に持ちそれを少し飲んだ。

ラムザが話し始めた。

「さっきの…怒ってたの?」

「え?」

 

いきなりだったのでアグリアスは聞き返した。

「だって、ラファがあんな事言ってから機嫌が悪くなったみたい…」

「あぐ…な、なんで私が怒る?お、怒る理由なんか無い!」

アグリアスは心の内を見透かされた事に思わず反論する。

 

ラムザは残りのワインをぐいっと飲み干して、そして言った。

「いやあれは怒ってた。アグリアスさん、なんで怒ったの?」

「うっ…」

いつもとは違うラムザの決めて掛かったような問いに思わずつまる。

「べ、別に…おまえがメリアドールと仲良くしようが…私には関係ない。」

「あ…焼きもち妬いてくれてるの?あははっ…うぃっく」

「や、焼きもちなんて妬いてない!!」

アグリアスは真っ赤になりながら否定する。

 

「あははっ、赤くなったアグリアスさん。かわいーっ」

 

ぎゅっ

 

「わぁっ!?こ、こらっ何するんだラムザ!?」

ラムザは嬉しいとばかりにアグリアスに抱きついた。

 

「焼きもち妬いてくれるなんて嬉しいよ…ひっく…」

 

「え…?ら、ラムザ、おまえもしかして酔ってるのか?」

「酔ってないよ!酔ってない酔ってなーーーいっ!!」

そうむきになって反論するラムザ。

だがアグリアスに抱きついたままだ。

 

「こっこら!離せ!…わっど、どこ触ってる!?」

 

カシャーーンッ

 

2人のもつれ合いにグラスが倒れて割れる。

 

「好きです!アグリアスさん!」

「えっ…」

 

アグリアスはどきりとして動きを止める。

「あ…いきなり…そんな事言われても…きゃっ」

アグリアスがぼーっとして突っ立っているうちに

ラムザがぐいぐいとアグリアスを引っ張って…

そしてベッドに押し倒した。

 

「あっら、ラムザ!…な、なにを!?」

自分をまっすぐ見つめるラムザの視線に耐えられず顔をそむける。

完全に覆い被されたアグリアスはどきどきするだけで何もできない。

そしてラムザは彼女の手を押さえたまま顔をアグリアスの胸にうずめる。

 

「ふにゃふにゃ…柔らかいし…大きい…」

「わぁっ!!止めろ!ば、ばかぁっ」

あまりの恥ずかしさにアグリアスは涙目になる。

 

「ふにゅ…アグリアスさん…」

顔を上げたラムザは、今度はアグリアスの顔に自分の顔を近づける。

「あっあ…」

アグリアスはとっさにその行為の意図を掴み、思わず目をつむった。

しかし口には何の変化も無い。変わりに熱い吐息が首筋をくすぐる。

「あっ」

アグリアスは声をあげた。体がぴくりと反応する。

まだ息がかかる。

「う、はぁ…や、やぁ…」

アグリアスは動けなかった。いや、動かなかったのか。

自分でも分からないこの感覚から逃れるように強く目をつむる。

しばらくアグリアスは抵抗しなかった。

だが、ラムザも全然動かない。首筋に息を吹きかけてくるだけだ。

「…ら、ラムザ?」

「…すーっ…すーっ…」

「え?ね、寝てる?」

ラムザはアグリアスに抱きつくようにして眠っていた。

それを理解してようやくアグリアスは落ち着きを取り戻した。

ラムザの温もりを感じながら今の自分の状況を考えてみる。

 

(…こんなにドキドキさせといて…)

 

アグリアスはやり場の無い気持ちをぶつけるようにラムザの頬をつねる。

(もし寝なかったら…私はこのまま許したのだろうか?)

そう自問するが、自分は抵抗しなかった。それは分かっていた。

 

(たぶん…自分は許すだろう。この男になら。)

 

そう思うと、今寝ているラムザが可愛くなった。

アグリアスは自分に覆い被さるように寝ているラムザを横に下ろし、

ぴったりとくっついてお互いに掛かるように毛布をかぶる。

「一緒に寝るぐらいなら…いい。おまえとなら…」

アグリアスはそう言って、明かりを消し眠りにつくのだった…

 

翌日―――

早朝…

「う…うぅ~ん、あ、頭痛い…」

ラムザは頭に来る鉛のような重さと気分の悪さで目を覚ました。

「あれ?ここは…えっ!?アグリアスさん!?」

ラムザは自分の目の前で眠っているアグリアスを見て驚く。

 

「あれ!?な、なんで?」

ラムザは状況が掴めず慌てていると、隣りのアグリアスも目を覚ます。

「う、うん…あ、…!?」

アグリアスもラムザと目が合った途端、がばっと起き上がる。

2人ともに顔を真っ赤にして固まってしまう。

 

「ご、ごめん!ぼ、僕なんでここに?」

「…憶えてないのか昨日の事?」

「え…?」

ラムザは考え込むが全く憶えていないようだ。

 

「ご、ごめんアグリアスさん!!ぼ、僕、何か失礼な事した?」

「…ちょっと…だけ」

アグリアスはうつむいたままぽつりと言った。

しかし、ラムザはその「ちょっと」がぐさりと心に刺さる。

 

「ごめんなさい!!ぼ、僕全然覚えてなくて…

この部屋でワイン飲んだ所までは憶えてるんだけど…」

そう言ってラムザは額をベッドに擦りつけるぐらいに頭を下げる。

ラムザにとっては、大切に想っている人だけに

そんな事をした自分がなにより情けなかった。

 

「いい…嫌じゃ、ないから」

「え?」

「ワインを飲ませた私も悪いから…それに…何もなかったから」

 

アグリアスがそう言った後、またお互い沈黙する。

 

「…あ、ごめんすぐ出て行くから。」

ラムザはそう言って慌てて部屋を出ようとする。

「ごめんなさい」

最後にそう言いドアに手を掛ける。

 

「…ラムザ」

「え?」

「…嫌じゃ、なかったから」

ラムザは思わず唾を飲み込む。

「う、うん…じゃ、また朝食で」

少し震えた声で言い、ラムザは部屋を出て行った。

 

静かになった部屋のベッドの上で、アグリアス1人が残る。

「は、恥ずかしかったぁ…」

アグリアスは熱くなる頬を手で覆う。

そして、さっきまでラムザが使っていた毛布をぎゅっと抱きかかえる。

 

「私の気持ち…ばれちゃったかな?」

 

ラムザの温もりを感じながら、アグリアスはそうつぶやいて、

恥ずかしさを隠すように顔を毛布にうずめた。

 

窓から入り込む陽光が彼女を照らす。

鳥のさえずりが聞こえる。

そんな、空気の澄んだ清々しい朝、

アグリアスは胸の鼓動をずっと感じていたのだった…

 

 

~fin~

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