FFT_SSの日記

インターネッツにあるFFTのSSや小説を自分用にまとめてます。

【FFT SS】目覚めると、隣に

 

小鳥のさえずりが聞こえる。朝日に挨拶しているのだ。

街の活力は日光に比例して増えてゆく。

貿易都市ドーター。毎日大量の物、人、カネが行き来する街だ。

「う…ん…」

安宿の一室。カーテンの隙間から差し込む光が、ベッドの人物の頬を優しくなでる。

「朝…か…?」

ベッドの人物は眠そうに目をこすると、両手を上げて伸びをした。そして。

「な、な、な…!」

眠気が吹っ飛ぶ。頬がみるみる紅くなった。

理由は二つ。

 

一つは、自分が一糸まとわぬ姿であること。

もう一つは、ベッドで寝ていたのは自分だけではなかったということ。

「メ、メリアドール、なぜ…」

「ううん…らむざぁ…」

モデルのようにスラリとした肢体を惜しげもなくさらしているのは、

神殿騎士メリアドール。

彼女もまた、生まれたままの姿で寝ていた。

「ラムザ、ではないッ!」

「!!」

メリアドールの肢体がびくん、と跳ねる。

夢を強制終了された彼女も、自分の状況に声を詰まらせた。

「アグリアス…!あなた、まさか…!」

「ばか!変なこと考えるな!」

アグリアスと呼ばれたその女性は、金髪まで赤くなって否定した。

「でも…この状況を考えると…」

「う…確かに…」

お互い目を逸らせる。

気まずい沈黙が流れた。

 

 

「状況を整理しよう」

床に散らばっていた服を着終わると、アグリアスが切り出した。

「そうね…」

普段は不倶戴天の二人も、今は一時休戦。

アグリアスは椅子に、メリアドールはベッドに腰掛けた。

「確か、昨夜は…」

「皆で宴会してたわ…大陸産のワインで皆できあがっちゃって…」

そう。昨夜、ラムザたちはドーターを離れる前に、と宴会をしていた。

「思い出した。酔っ払ったお前が喧嘩をふっかけてきたのだったな」

「あなたが先でしょう!」

「お前が先だっただろう!」

二人の間で火花が飛び散り…

「…やめましょう。不毛だわ…」

「…そうだな」

剣の柄に伸ばしかけた手で前髪を払うと、アグリアスは記憶をたどり始めた。

(メリアドールと言い争いになって…ラムザに止められて…それから…)

先はなかった。何も覚えていない。記憶の糸は切れていた。

「アグリアス、あなたも…?」

「そう言うお前も…」

また、気まずい沈黙が漂った。

アグリアスは頬が紅潮するのを止められなかった。

メリアドールの頬もほんのりと赤みがかっている。

「わ、わたし、顔洗ってくるわ」

「あ、ああ…」

栗色の髪を揺らして、メリアドールは部屋を出た。

一人になると、いろいろな考えが浮かんだ。

 

私は何をやってしまったんだろう。ラムザに何と言えばいいのだろう。

メリアドールはどう考えているのだろう…

 

急にまぶたの裏に、メリアドールの肢体が写った。

ぷるぷると頭を振って追い出した。

「何を考えているんだ、私は…」

はぁ、とため息をついた時。

「大変!大変よ!」

メリアドールが飛び込んでくる。

「私たち、置いていかれちゃった!」

 

 

「状況を整理しよう」

宿を出た二人は、近くの公園で今後のことを話し合っていた。

彼女たちが置かれた状況は、こうだ。

朝起きると、裸で同じベッドに寝ていた。ただし、昨夜の記憶はほとんど無い。

ラムザたちは自分たちを置いて、すでに出立している。

装備はそのまま部屋にあった。

「あらゆる可能性を考えると、一番妥当なのは…」

「ああ」

二人とも同じ結論に達していた。それは最も口にしたくないことだった。

「私たち…じょめ」

「言うなッ!」

アグリアスの、叫びに似た言葉がメリアドールを黙らせた。

「だって、だって…」

神殿騎士の瞳が潤みを帯びて、こぼれ落ちそうだった。

泣きたいのはアグリアスも同じだ。

胸を突き上げる嗚咽で窒息しそうなのを、彼女は必死にこらえた。

「次の目的地は、確かリオファネス城だったな」

「ええ…儲け話に送った人を迎えに行くため、だったかしら」

リオファネスなら、近いな。急いで追えば追いつくかもしれない。

「追うぞ」

追いついてどうするのか、アグリアスは考えていなかった。

とにかくラムザに会わなければならない。いや、会いたい!

「そうよね…そうだよね」

メリアドールは涙をこすると、右手をアグリアスに差し出した。

「よろしく頼むわ」

「ああ」

女騎士同士の握手。

どうして自然に手が出たのか、アグリアスには分からなかった。

 

 

「あなたって最高よね」

額を流れる汗を拭い、メリアドールがつぶやいた。

「何をどうやったら、こんなことになるのかしら」

「…言いたいことを言わないのは、肌に悪いぞ」

ざっかざっか。

アグリアスは背後の女を振り向きもせず、砂の上を歩いていた。

「確かに、ドーターからリオファネスに行くなら、ゼクラス砂漠を通るわ」

ざっかざっか。

「でもね…ここはベッド砂漠なのよ!」

「砂漠には違いない!」

「無茶苦茶言わないでよ!」

「く…」

ベッド砂漠…べスラ要塞から自治都市ベルベニアに通じる砂漠。

ゼクラス砂漠のずっと東である。

「大体、誰のせいでこうなったと思っている?」

「あなたが方向音痴だからよ!」

「断じて違う!元はといえば、お前が路銀をなくすのがいけないんだろう!」

「う…ち、ちょっとしたミスじゃないの。ちゃんと代わりも稼いできたし…」

「ほおぅ…教会の金庫襲っておいて、いい面の皮だな」

「…いいのよ、あんなの!ラムザを異端呼ばわりする連中の金なんだから!」

ぴたっ。アグリアスの足が止まる。メリアドールの背筋を何かが走った。

アグリアスはたっぷり時間をかけて振り向き、

「お前もお仲間だっただろうが、この寝返り神殿騎士!」

「言ったわね、鈍足聖騎士様!」

二人の手が腰の剣にかかる。一触即発のその時。

一瞬で夜になった。正確には、二人の周りだけ暗くなったのだ。

何か巨大なものが上にいる。ほとんど反射的に、二人は跳んだ。

一瞬の間をあけて、雷が地面を切り裂く。アグリアスは空を見上げ、息を呑んだ。

黒光りする巨躯。六つの眼、三つの首。

「ハイドラ!」

ヒュドラの上位種。三つの首から炎、状況によっては雷を吐く強敵だ。

砂漠には生息していないはずだが…。

「近くにまじゅう使いがいるわ!」

「わかってる!」

トリプルサンダーを撃つ、つまり、もう一人近くにいる…。

眼を左右に走らせるが、不毛な砂ばかり。人影などなかった。

 

バシュッ!

 

ハイドラが雷を吐く。アグリアスは体を躍らせ、かろうじてかわす。

「キャッ!」

二本がメリアドールの近くに落ちた。

避けきれなかったのか、腕を押さえてうずくまっている。

ハイドラ、急降下。メリアドールに向かって。

「チッ!」

考えるより先に体が動いた。砂を蹴り、メリアドールの前に踊り出る。

「アグリアス!?どうして!?」

「やりたくてやってるんじゃないッ!跳ぶぞッ!」

メリアドールの腕を取り、大地を蹴る。…が。

足元が崩れる。足場が弱かったのだ。気持ちは前に出るのに、体がついてこない。

漆黒の竜が迫る。六つの視線が二人をなめ回した。

アグリアスはメリアドールの手を強く握った。メリアドールも握り返した。

「!」

巨体が激突する直前。ハイドラの動きが止まった。

「うふっ、冗談よ、冗談」

聞き覚えのある声は、ハイドラの背中からした。

「ちょっとからかってみただけ。ごめんなさいね?」

竜の背中から降り、ロングスカートのほこりを払う。金髪がさやさやと揺れていた。

「レーゼ!」

レーゼ=デューラー。人の姿をしているが、聖竜の血を引くドラグナー

小柄な体の中には膨大な魔力が封じられている。

「あなた達を迎えにきたの…彼も一緒に、ね」

「彼?」

「僕だよ」

竜の背からもう一人降りてくる。

「ら…らむざ?」

メリアドールの震えた声に、青年は微笑んだ。

 

 

ハイドラの背は大きく、四人が座っても余裕がある。

はるか足元にはベッド砂漠が広がっている。

「つまり…私たちは担がれたのね?」

「まぁ…そう、なるのかなぁ?ははは…」

笑ってごまかすラムザに、二人の冷たい視線が突き刺さる。

「しばらく二人きりでいれば、少しは仲良くなると思って…」

ふぅ。アグリアスはため息をつく。

ラムザの回りくどいやり方は、自分たちを思ってのこと。そう考えると怒るに怒れない。

「じゃあ、ずっと見てたの?」

とメリアドール。これにはレーゼが答えた。

「簡単よ。教会が襲われたり、盗賊団が壊滅した後を順に追っていっただけ。

あんな派手なことするのは、あなた達ぐらいだわ」

「う…じゃ、どうして私たち、裸で…」

「こら!」

アグリアスの手がメリアドールの口を塞ぐ。

何のこと?の表情をしている横で、レーゼが両手を合わせる。

「それは私がやったの。ほら、二人ともいつも鎧着てるじゃない?

どんなプロポーションしてるんだろうね、ってラファちゃんと話してて、ついつい…。

女の子同士だし、いいでしょ?」

無邪気な微笑みの前で、女騎士二人は顔を見合わせた。

「ぷっ…」

「ふふっ、ははは…」

二人とも吹き出してしまった。変な心配をしていたのがおかしかった。

その横で、ラムザはぼうっと上の方を見ていた。こころなしか、頬が上気している。

「…ラムザ。何を想像している?」

「え。あ、あの、えと…」

あたふたする態度が答えだった。

『らぁ~むぅ~ざぁ~!』

「あの、お二人とも、顔が怖いですよ?ここは高いし、危な…」

二人のオーラに血の気が引いた。レーゼはそそくさと避難している。

「問答無用!無双稲妻突き!」

「追い討ち強甲破点突き!」

「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…!」

ぷすぷすと煙を上げるラムザを見て、アグリアスは胸がすーっとする思いだった。

メリアドールに目を向けると、微笑を返してきた。

結構、うまくやれるかもしれないね。

微笑みはそう言っていた。

 

~fin~

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